第四百十話 体と口で攻める
卓越しにテレジアはマリーに襲いかかった。
「テレジア様!!」
メルシー伯が叫ぶと背後の護衛二人がテレジアを止めに入ろうとした。
「おやめ下さいテレジア様〜!」
左右から護衛がテレジアを羽交締めにして止めにかかった。
高貴な身分の女性に簡単に触れるのは本来許されない事だが、非常事態の場合は護衛という立場を以てなら可能だった。
「ええい離さんか〜!!」
屈強な男達が引き留めているのにテレジアの体が前に進みそうな勢いだ。
「あなたのせいで……お前のせいで〜〜!!」
両腕をマリーに向けて伸ばすテレジア。
マリーはその手を握手する様に取った。
「お母様〜」
「分 か っ と る の か〜!!」
マリーの手を振り払い両の手を拳にして握るテレジア。
「あなたがフランス王朝へ嫁いだのは両国の友好の証! 同盟関係を深める力となる!! それが暴れん坊だの糞の王女など言われてはオーストリア王国の面目が立たないだろが〜〜!! 友好にひびが入ってしまったらどうするのですか〜〜!!」
「ひび……?」
マリーは首を傾げた。
「私両国の間にひびなど入れたかしら…………あなた?」
唐突に自分の方に振り向かれ国王はひるんだ。
ただでさえ女王がえらい剣幕で叫びまくっているのだ。
自分に振られてもどうすれば……
「な、何だね?」
「あなたは私がフランスとオーストリア、両国の間にひびを入れたとお思いですか?」
「えっなんだそれは……」
考えた事も無かった風のリアクションを取る王。
「…………少なくとも私はそんな事考えた事も無いがな」
「まあ、ありがとうございます!」
「な に 言 っ て る ん で す か 国 王〜〜!!」
「ひぇっ?」
とうとう国王まで怒鳴られる羽目になってしまい王の目が泳ぎまくった。
「えええ、ああっと…………」
「そもそも国王たるあなたがしっかり王妃を抑えねばならないのでしょうが〜〜!! なのになんでこうも娘を放置しておくのですか〜!! この娘は放っておくと何をしでかすか分からないのだから〜!!」
「そ、そうですか……」
ここでメルシーが決死の思いでテレジアを引き止めた。
「テレジア様、いくら何でも国王様にその様なきつい言葉をおっしゃっては……両国の友好を考えるならここは堪えて下さい!」
「何を言うか!! 夫が妻を止めんでどうする!?」
「し、しかし国王様だけにその様に責任を問うのは……」
「だけ?!」
「はい……」
女王の動きが一瞬止まった。
「…………確かに私達が娘をフランスに送る前に何とか矯正できていれば……こんな事には!!」
テレジアの熱気が下がっていく。
国王はそれを見てほっと一息ついた。
マリーも夫の事を言われて言葉を返そうとしたがもうそのタイミングではなさそうだ。
「?!」
その時全員がテレジアの異変を肌で感じた。
彼女の体が小刻みに震え出したのだ。
それまでと違った重低音の声が彼女の口から発せられた。
「こんな事になったのも…………それもこれもみんな…………」
天に向かって咆哮がぶっ放された!
「ヒ 〜 バ 〜 リ 〜 コ 〜〜!!!」
「どうしよう、とても中に入れない」
ドアの前で護衛達に混ざってメイド服のビスケが弱りきっていた。
紅茶と茶菓子を乗せたカートを押すでも引くでもなく途方に暮れて早、数分。
一部の重鎮と護衛だけにしかテレジアの事は知らされてない。
小間使いになど知らせる訳もない。
なので護衛のビスケを手っ取り早く小間使いに仕立て上げて茶菓子を運ばせたのだが……
「すみません、もう少しここで待機させて下さい」
ビスケの言葉に護衛達は一言も返せなかった。
言も動も強烈なテレジア。
六十代の老女が暴れん坊王女相手に一歩も引かず攻めまくる。
という事で騒乱はまだまだ続きます。




