第四百八話 ぶつかる視線
「国王様、王妃様、女王テレジア様がおいでになられました」
極めて緊張した面持ちで護衛が報告して来た。
「おおそうか。入って頂け」
無造作に応答する国王。
マリーも悠然と構えている。
室内の護衛役のカークは表情を曇らせていた。
昨日の一件から考えて穏やかに事が進む筈がないと確信していたのだ。
外から階段を登る足音が聞こえた。
ドアの前で足音が止まる。
しばらく間が空いた……
それだけで何故か空気が緊張していく。
こんこんっ
ノックの音がする。
「ただ今オーストリア女王マリア・テレジア様がおいでになりました」
メルシー伯の声に国王ルイ十六世が答えた。
「どうぞお入りを……」
音も無くドアがゆっくり開いていった。
目に見えない何かが発散され空気が変わった。
どっ
重々しく足が踏み入れられた。
入って来たのは歩く威圧感だった。
その様相にカークら護衛三人はたじろいでしまった。
入室したマリア・テレジアの表情はすでに緊迫感で張り裂けそうになっていたのだ。
「ようこそおいで下さった。フランス国王ルイ十六世です。わざわざのご来訪感謝します」
飄々とした声で国王が挨拶した。
その無造作さ加減に背後に立つカークが当惑してしまった。
(国王様、堂々として……というか鈍感なのか?)
王の真正面に立ってテレジアが挨拶を返した。
「オーストリア女王のマリア・テレジアです……お出迎えありがとうございます…………」
無表情、を装い声を抑揚の無いもの、に抑え付けテレジアは挨拶を終えた。
しかし内から発散されるものはとても抑えきれない。
彼女の引き連れた護衛とメルシー伯は懸命に発散される圧に耐えていた。
「長旅大変だったでしょう。取り敢えずあちらに」
国王が用意された豪華な木彫の卓にテレジアを促す。
「ありがとうございます……」
テレジアは卓に向いた。
しかしさっきから視線は一点に向けられ続けていた。
その一点に向いた視線の先は終始笑顔を絶やさないでいた。
横目で睨みながらテレジアは卓に着きメルシー伯も習う。
国王とマリーも卓に着いた。
女王と王妃が真正面に向かい合う事になった。
母、マリア・テレジアが強烈な視線を娘、マリーアントワネットにぶつけてきた。
言葉で娘は返した。
「お母様、よくぞ来仏を決意下さいました。もう会えないと覚悟しておりましたのでこれ程嬉しい事はありません」
「…………」
無言で睨む母。
傍のメルシー伯は……
(な、なんだ、テレジア様の視線をまともに受けて平然と笑っている! 何というお方だ! これが女王の娘というものなのか?!)
さらにその隣を見る。
(この国王なぜこんなにものんびりとしてるんだ?! 空気を読めないのか? だとしたらあまりに不感症過ぎるだろう!)
その空気を読めないとされる王がゆるい声を発する。
「テレジア殿、本日は硬い話は抜きにして親娘親族での語らいをしたい。それでよろしいかな?」
「はい……望む所です!」
「?」
言い回しにちょっと違和感を感じた王だったが深く考える事はしなかった。
「マリーよ」
王がマリーに話を振った。
「昨日は偶然女王と会ったのだったな。今日はこの場でじっくりと話せる。昨日話せなかった事があったならいくらでもするといい」
「はい!」
嬉々とした表情で応えるマリー。
「お母様とは募る話がありますので……」
「あ る の は 私 で す !!」
ボリュームが上がった!
流石に国王もテレジアのただならぬ雰囲気に気付いた。
「テレジア殿……どうされました?」
「国王様。ここはまず私が娘に言いたい事を言い切らせて頂けますか?」
有無をも言わせぬ迫力でテレジアは国王を見やる。
惑いながら王はマリーを見た。
「いいか…………マリー?」
「はい、もちろん!」
王はぎこちなく女王に向き直った。
「では……どうぞ言い切って下さい…………」
すうう〜〜っ!
テレジアは大きく息を吸い込んだ…………
「あ な た は な に を や っ て い る ん で す か あ あ あ〜〜!!!」
遂に直接対峙。
やっぱり母の怒号は止められない。
対するマリーの一手はどうなるのでしょうか?




