第四百七話 テレジア出撃
ヴェルサイユに帰ったマリーは夕食の際に国王に母との再会を報告した。
王はテレジアが一日早くパリに到着した事を伝令で知っていた。
「それで馬車で移動していたお母様と偶然出会ったのです!」
嬉々として話しかけてくる妻に王も一旦うずらの肉を口に運ぶのを止めて聞きに回る事にした。
「私を見かけた母がわざわざ馬車から降りてこちらに向かって駆け寄って下さりました」
「ほう、そうか」
「私は下水道の清掃作業の立ち会いで服が汚れていましたが、それでも構わずに再会の抱擁をして頂きました!」
「……それは良かったな」
聞きながら王はマリーの話とメルシー伯の伝令の話とに開きを感じていた。
確かテレジア様は大層ご立腹されておりましたとか言ってはいなかったか?
「わざわざフランスにまで会いに来て頂けるなんて感謝この上ありません!」
まあ妻がこれ程喜んでいるならいいか。
「マリーよ。一日早く到着したのだからここでの出迎えも一日早まる。明日朝十時頃になるだろう。準備をしておきなさい」
「はい!」
嬉しそうに返事をするマリーに王は一安心をした。
(これならつつがなく出迎えの挨拶ができそうだ。あまり心配する必要は無かったようだな)
王は再びうずらの肉を頬張るのだった。
翌日朝十時頃。
国王夫妻は女王テレジアを出迎える体制を整えていた。
お忍びという体裁でであったのでテレジアの来訪を知る者は王族貴族の間でも一部しかいない。
出迎えの場所はヨーゼフ二世の時と同じマリーの私室であった。
隠し階段を通って目立たぬ様に来てもらう手筈も同じ。
部屋の中に三人、外に四人国王と王妃お抱えの護衛が見張る。
事情を知る一部貴族王族で同席する者はいない。
まずは家族肉親だけで対面となった。
ドアをノックしたのち、護衛の一人が部屋に入り報告をした。
「国王様、王妃様! 女王様が到着したとの伝令が入りました!!」
「ご苦労」
「報告ありがとうございます」
「いよいよか……」
「落ち着かれてますね」
「そうか? まあ君が昨日再会を喜びあったようだから大丈夫かと思ったからかな」
「そうですか……私もそう思います! 気を楽にして母を迎えましょう!」
ずおおお……
馬車から出てきたテレジアのたたずまいは傲然としたものだった。
待ち構えた従者護衛達が気押されて近付き辛そうだ。
一緒に馬車から降りたメルシー伯がげっそりとした顔をしていた。
宮殿前で地に立ったテレジアは鋭い目で周りを見回す。
「これがヴェルサイユ宮殿……」
メルシーが相槌を打った。
「はい、実に荘厳な王宮でございますな……」
「あの娘はどこです!?」
ぎろっ
びくっ
「あ、は、はい、あちらから行きましょう……」
言いながら誘導に取り掛かるメルシー。
テレジアを中心に少し距離を置いて大人数の輪っかができていた。
(これは目立ち過ぎる。早く宮殿内に入ろう)
と、思うメルシーだが。
どっどっどっどっ
「ああ、テレジア様お待ちを〜!」
置き去りにされそうになった輪っかが懸命にテレジアを追いかけていった。
テレジア出撃。
マリーと王は意外とお気楽。
双方がぶつかれば何が引き起こされるのか?
まあ大体見当つきますがねw




