第四十話 相席食事2
街灯の灯りを頼りにカフェを見つけた。
かなり立派な作りだから入っても問題無いだろう。
雪を払うと四人はドアを開け入って行った。
店に入ってまず目にしたのはストーブに群がりこぞって暖を取る男達の姿だった。
外が雪なのだからそれはそうだろう。
ただ彼らは入って来たマリーらを振り見ると珍獣でも発見したみたいな顔をした。
テーブルに座っている客達も同様だった。
マリーが周りを見回すと店には男しかいなかった。
ああ、こういう偏りもあるのかとマリーは思った。
「四人、空いている席は有りますでしょうか?」
カフェのボーイが近付きマリーに声をかけた。
「こちらが空いております」
事務的な口調で席に誘導するボーイ。
場違いな客には下手に反応しない方が良いって判断だろうか。
大理石のテーブルに四人は座った。
さっそくマリーが注文した。
「温かいコーヒーをお願いします」
「じゃ俺も」
「私も同じで」
「じゃ、私はあったかいミルクで」
「はい、お待ちを」
飲み物を待つマリー達を店内の客のほとんどが興味本位で見つめていた。
しかし声をかける根性のある者は中々現れないようだ。
そんな中、一人の男がマリー達のそばに近付いて来た。
身なりから男が貴族である事は分かるがマリーの正体に気付くだろうか。
マリーは今、以前から使っているボンネットという頭巾状の帽子で金髪を完全に隠している。
更に現在流行ってはいるがマリーが過去一度もしなかった顔への白塗りも行なっている。
果たして気付かれるかどうか。
「失礼、宜しければ少し歓談させていただけませんかな?」
言いながら彼は隣のテーブルに座った。
「あなた方の様な客がこの店来られるのは珍しいもので」
マリーは無造作に答えた。
「街灯に照らされた雪景色を観賞していたのです。でもずっとは見ていられません。雪は降り続けるし体は冷えるしで取り敢えず目に付いたカフェに逃げ込んで来ました。他意はありません」
「なるほどそうでしたか。ここにいる者の多くも同じ理由でしょうな。とにかく寒い、と言うより冷たい」
まだ気付いてはいない様だ。
一方カークは男を見つつ、またかと思った。
以前の食堂と同じパターンだ。
しかもカフェに集まる人種は芸術、政治、その他諸々の話題を毒舌を交えて喋りまくる曲者だらけだ。
目立つ客は毎度まとわり付かれる定めか。
「私はニコラと言います。お嬢さんのお名前は?」
「マーニャです」
「そちらの三人様は?」
「護衛と馬車担当です」
「おお、それはマーニャ様はさぞかしご身分の高いお方なのですね」
「おやめ下さい。こんな所で身分がどうのなど言ってどうなるものでも有りません。気にするだけ無駄ですわ」
ニコラは目を丸くした。
上流階級の人間でこんな理屈を言う者など初めてだったのだ。
身分を無駄扱いとは。
俄然興味が出た。
「パリにお住まいですかな」
「いえ、ヴェルサイユで……え〜と……私は職務質問されてるんでしょうか?」
「えっ?」
ニコラが泡食った顔をした。
「ゆきずりの者同士がこの場で他愛も無い話をするのなら、それ程相手の事を聞き出さなくてもできるでしょう。少なくとも私はそんなつもりでしたが」
「……そ、そうですか」
カークが横目で見ている。
(いくら素性を隠してるとは言え……平民だったらここまで言ってただろうか?むしろ話し込んでたんじゃ……)
「それでは私の事を少し。ご興味無いかもしれませんが。私は元々は農家の出身です。その後文筆業を始め今に至ります。もし何かご興味のある話題などあればお聞きください」
(何だ平民出身か。マリー様の機嫌が治れば良いが)
などとカークが思っているとボーイが注文の品を運んで来た。
「お持ちしました」
ソーサーに乗ったカップのコーヒー等をボーイがテーブルに並べる。
「ありがとう」
マリーが礼を言うとボーイは当惑してその場を立ち去った。
明らかに言われ慣れてない。
マリーだけこの店の中で違う空気を発散しているのだ。
一口飲むとマリーはニコラに向いた。
「私達、貴族階級や王族の行う政治の評判などをお聞きしたいですね」
「ええ?!」
そんな事を、という表情をあらわにするニコラ。
ビスケやバジーもぽかん顔。
カークは頭を抱えている。
「政治の事には疎いでしょうか?」
「そんな事は……」
「ならば、私達貴族に気を使わずに遠慮なく」
マリーはにっこり笑った。
「え〜、さっき他愛も無い話と言っておられましたが」
「はい、他愛もなく話しましょう」
前にあった話と同じ展開です。
なので2としました。




