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第三百九十七話 差し入れ







 川の水を汲み樽等に入れ荷台で運ぶ。

 それを何箇所にも及ぶ仮設テントに運び浴槽に満たす。

 この水を仕事を終えた作業員の泥を洗い流す為に使う。

 これだけでそれまでと桁違いの水を必要とし、更に人手と手間と…………金がかかる。

 それでもマリーは実行した。

 夏の間の作業は極めて過酷なものになる。

 だからこれらの配慮はむしろ当然とマリーは考えていた。

 涼しい季節になるのを待たずに夏中に作業を終わらせようとしているのはマリーの事情だ。

 今年中にひとまずの結果を出さねばならないから…………





 真夏。

 パリでの下水道の掘り返し作業は汚れと腐臭だけでなく暑さとの戦いだった。

 その暑さを少しでも和らげる為早朝から仕事が開始されていた。

 昼過ぎには仕事を終え行水目当てに仮設テントに向かう作業員達の姿があった。

 彼らがテントの中に入ると……


 「皆様方お仕事ご苦労様でした〜」


 「わっ出た!!」


 驚く作業員達。

 パリの下水路沿いに各所ある仮設テントに不定期に現れ作業員達をねぎらうこの国の王妃マリーアントワネット!

 彼女の隣で作業員の親方が平身低頭していた。

 とにかくいつ現れるか分からないのでどうして良いか分からない。


 マリーは持っていた手下げ袋から四角く切られた深緑色の物体を取り出した。


 「今日は皆様の為に石鹸をお持ちしました。ご自由にお使い下さい」


 おお〜


 これには作業員らも歓迎の歓声をあげた。

 石鹸は彼らにとっても貴重品だったのだ。

 

 「ではどうぞ」


 泥だらけの作業員達に一個一個手渡して回るマリー。

 間近になるので臭いまで身近になるがマリーが気にする筈も無かった。

 対照的に背後にいる護衛らは厳しい目を光らせている。

 その中で一人護衛でないバジーがつぶやいた。

 

 「カークさんよ、マリー様の身を守るのが護衛の使命だろ。じゃ、あれはどうするんだ?」


 言われてカークはマリーを睨んでいる。

 石鹸を手渡しするのだから当然マリーの手が泥で汚れていた。


 「……納得してはいないが……」


 渋い顔で見つめるカークの前でマリーが作業員の差し出した手を握り返していた。

 

 「これからもよろしくお願い致します。あなた方がこのパリを綺麗にしておられるのですから」


 「は、はい! 頑張ります!」


 カークが身構えた。


 (一体どの段階から割って入ればいいのだ? ハグでもしようとしたなら止めねば)


 ここでマリーが両手を広げた。


 (何っ! 本当にハグ? 無防備すぎだ、って言うか汚れまくるだろう!)


 カークは勢い良く前進した。

 マリーの間近に来た瞬間、


 ぽんっ


 マリーは広げた両手を音を立てて合わせた。


 「それでは次行きましょう!」


 カークの体がマリーの脇を通り過ぎた。


 「うわっ」


 足がもつれてつんのめるカーク。


 ごんっ!


 置かれていた浴槽の淵に頭をぶつけてしまった。


 「うぐっ! ……痛たたた」


 「おや、大丈夫ですか、カークさん?」


 「大丈夫です!!」


 おでこをさすりながら立ち上がるカーク。

 

 (最近この手のパターンが増えたな…………)



 この後マリー一行は他の仮設テントを回って石鹸の差し入れを行った。

 



 

 

 当時は貴重な石鹸を気前よく振る舞って激励する。

 自らの手を汚して。

 民には評判良いだろうけど母には……

 再会はいつどのように果たされるのでしょうか。

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