第三百九十五話 泥を落とすには……
ヴェルサイユに戻ったマリーはテュルゴーの執務室を訪れた。
部屋にはバジーもいた。
「実は下水道の掘り起こしを行う作業員の皆さんに作業後に泥を洗い流して欲しいので……」
「どうするのですか?」
「はい……お風呂をなんとか設える事はできないかと考えました」
「…………風呂、ですか」
テュルゴーの表情が複雑化する。
「ええ、下水の作業をする方専用で」
「それを……私にどうせよと?」
「それですね。下水の作業員は下水道に沿ってパリ中に広がっている。一箇所設営しても一部の人にしか恩恵をもたらさない。そこで悩んだんですね〜!」
「だから私にどうせよと言うんですか〜!」
困り顔のマリーにテュルゴーが突っ込んだ。
「言っておきますが作業場全部に施設を設営するなど非現実的ですよ! 水を運ぶだけで大変な労力です!」
「う〜ん、それで何とかならないかと」
ここでやっとバジーが口を挟んだ。
「要するに金の力で何とかしようって心づもりですか? それでテュルゴーさんですか」
「う〜ん……全箇所施設作っても下水道の掘り返しが終われば用無しですしね。まさか作業終了後も市民に使える程本格的な施設をいくつも建てる訳にもいきませんし。そこら辺が……」
「そんな物建ててる間に作業が終わっちまいますよ!」
「ですねえ。そこで更に考えたんですが…………」
更に?
その先があるのか?
二人はマリーの次の言葉を待った。
「風呂、いりませんよね?」
「「ええ〜〜!?」」
二人がかりで驚くテュルゴーとバジー。
今までの話は何だったのか?
「よく考えたらもう夏です。今六月半ばですからこれからどんどん暑くなるのです。ならばわざわざ風呂など沸かさなくとも行水で十分事足りるではないですか。それでいきましょう」
「それで……ですか」
テュルゴーが声を絞り出した。
それでと言われても。
マリーは気にも止めずに話し続けた。
「それで要は水を運ぶ量を増やせばいい。建物はテントで十分。浴槽があればなおよろしいと」
「いえ、その水を運ぶ作業が大変なのですが」
「ですから!」
マリーがテュルゴーに懇願の姿勢を取った。
「予算を出して水を運んでもらえませんか?」
「うう…………」
結局金の話になった。
しかし王妃の頼みを無下にできないのが辛い所だ。
観念するしかないのだろう。
「いくらかかるか試算してみます。具体的にどの様に水をお使いになるのですか?」
「はい! まず水を浴槽に…………」
この後マリーは希望する水の使い方を延々と喋り続けるのだった。
マリア・テレジアの来仏の日程が具体的になり始めた。
当然国の重鎮達が女王と会談を持ち国家間の政治的な重要事項について話し合う、それが最優先のはずなのだが…………
女王側の主張はまず王妃と話したいと言う事だった。
しかも…………とことん!
母と娘だから久々の再会の喜びを分かち合うならとことん、も分かるのだが…………
テレジアからマリーへの手紙の内容は検閲によって全部知られていた。
フランス語で書かれているので読むのも支障もない、が……
手紙を読む度に検閲官は震え上がったという。
政治思想的に全く問題ないと言うのにだ。
検閲に問題なく合格したのに検閲官が恐れる手紙など前代未聞だった。
そんな手紙を送り続けたテレジア女王が受け取り主に直接一対一で話すという…………とことん!
女王の渡仏計画を知る一部の人間は事の成り行きに大きな不安を抱いていた。
作業員達のケアを怠らないマリーですが……
それより重大な事が近付いている。
これはマリーの危機となるのでしょうか?
あと現在病気療養中ですので明日明後日の更新ができるかどうか分からないのでご了承お願いします。




