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第三百九十四話 来仏が決まって






 ヴェルサイユに戻ったマリーに国王が放った第一声は……


 「マリーよ、先程メルシー・アルジャントー伯より伝令があった。君の母上が……」


 「母が?」


 「フランスに行くと言っているそうだ」


 「ええっ?! 母がですか!!」


 「ああ、そうだ」


 一瞬マリーは動きが停止してしまっていた。

 まさに予想外の事態だったのだ。


 「今、向こう側で具体的な計画を思案しているとの事だ。こちらも何らかの対応を考えねばな」


 「あの母が……よく母国を離れる決意をしましたねえ……」


 「そうだな」


 「立場上おいそれと遠出はできないはずですが…………一体何があったでしょうか?」


 自分が原因だとは考えもしないマリーだった。

 

 (心当たりが…………ないのか)


 実の兄ヨーゼフ二世とあの激しいのやり取りはなんだったのか…………

 

 「まあもうしばらく先の話だ。本決まりになるまでは慌てず騒がず、で待っていればいいさ」


 「はい」


 と、返事をするマリーの体が震え出すのを王は見て取った。


 「? 、どうしたのだ」


 「はい……母が来ると思うと…………わくわくして震えが止まりません!!」


 「……嬉しくて震えてるのか?」


 「はい! なんと言っても私の母ですから!!」


 (これは…………どうなるのだ?)


 国王はこの先どうなるか予測がつかないので考えるのを止めにした。

 




 

 オーストリア女王マリア・テレジアの来仏計画は極秘とされ、一部の人間にしか知らされないという形で進行していった。

 女王の意向はヨーゼフ二世同様お忍びという形で行うという事だった。

 話がやや具体化してきた所でフランス側は女王の渡仏を了承した。

 ただ事は慎重を要した。

 それは女王マリア・テレジアは息子である皇帝ヨーゼフ二世をはるかに上回る大物だったからだ。

 彼女の渡仏にはまだ時間がかかりそうだった。






 下水道の掘り返し作業がパリ全土で本格的に実施された。

 金と人手がいる作業だが承知の上だ。

 マリーは作業の様子を見に足繁くパリに通った。

 実際下水道のゴミを取り除く作業は過酷で非衛生的極まりないものだった。

 作業が終わった者は樽に入った水をぶっかけられる。

 単純な方法だが水が金で売買されているパリではかなりの負担になる。

 水道などという物がない街に川からわざわざ運んで来なければならないのだから手間も金もかかって当然なのだ。

 

 「なんとかできないものか…………」


 マリーは街中で水路を掘り返す作業業者を眺めて呟いていた。

 街ゆく人々は業者の様子に不快そうな目を向けていたのだ。

 仕方ない事ではあったがこのまま見ているだけで我慢する事ができなくなっていた。

 

 (何だかむらむらしているな……)


 カークはマリーの背中に微妙な揺れを見て取った。

 

 (こういう時は……!)


 身構える。

 いつでも止められるように。

 ビスケもカークの様子を見て身構えた。

 

 マリーの右足が浮き上がり体が前に傾いた。

 目の前には水路が……


 「「マリー様!」」


 二人が叫んで飛び出した瞬間!


 くるんっ


 マリーは回れ右して歩き出した。


 「帰りましょう」


 「「わ〜!」」


 マリーと二人がすれ違い、勢い余って二人は水路に……


 がくんっ


 二人は水路の淵に上半身はみ出た形で地に伏した。。

 マリーがカークの右足とビスケの左足を抱え込んで止めたのだ。

 

 「どうしました? 二人共」

 

 「…………面目ありません」


 「…………先走りました」


 「では、帰りましょう」


 「あ……はい」


 やけにあっさりしている。

 当惑するカーク達を連れてマリーは帰途に着いた。





 

 母の来仏が本決まりに。

 それでも下水路の対策に追われるマリー。

 母娘の思惑がかなりかけ離れてるのでどうなるやら。

 

 

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