第三百九十二話 開けたら閉める?
「…………下水が流れてませんね……」
他の者も覗き見る。
大量のゴミ、泥の類が詰まっていた。
当然これでは水も詰まるだろう。
「この家が売り渡された時に台所と便所の排水は流さない様にと市当局から言明されていたと聞きます。トーマスさんはどうされていましたか?」
聞かれてトーマスは押し黙ってしまった。
下水の様子を見れば一目瞭然だ。
「お気になさらないで。この決め事は余りにも簡単に破る事ができてしかも確かめようが無い。一軒一軒見て回る訳にもいかないですからね。元々守れそうな決まりではありません」
気遣いの言葉をかけられトーマスはただうつむくしかない。
「これが現状なのですね。計画の実行前に実態を確認しておいて良かったです。この目で見ると見ないでは大違いですからね。トーマスさん?」
「はっ」
「今回はご協力ありがとうございました。報酬は何でいたしましょうか? じゃがいもや小麦ならいくらでもお持ちしますけど」
「えっえっ?…………」
「ただ、今は持って来てませんでしたね。他は…………」
マリーは少し考え込む仕草を見せた。
「お金かそれとも…………」
「お、お金?」
気色ばむトーマスに対しマリーは懐から紙を取り出し小さく折りたたんだ。
数センチの正方形となった紙をマリーはトーマスに差し出した。
「金貨を紙に乗せ折りたたんだものです。お渡しします……」
薄い青色の紙を差し出され慌てて受け取ろうとするトーマスだが。
「この紙は私が手紙を書く時に使う紙です」
マリーの言葉に伸ばす手を止めた。
「もし、貴方がこの下水道に関わる事で困る様な事があったら、この紙にその困り事を書いて目安箱に投函して下さい。この紙なら一目で貴方が出したと分かりましょう。だからこの包み紙も大事に取っておいて下さい」
「は、はあ…………」
何を言っているのか理解できていないトーマスだがとにかく金貨が欲しいので受け取った。
と、その時子供の声がした。
「うわ〜臭〜い!」
見ると二人の子供が蓋の開いた下水道を見下ろし顔をしかめていた。
「早く閉めてよ〜」
「あらこれは」
マリーは子供達に近付いた。
「ごめんね、少し待ってて下さい」
マリーがそう言った時にはカークが石蓋を引きずっていた。
「マリー様、それでは蓋を戻して……帰りましょう!」
「えっ! こんなに詰まったゴミを掃除せずに蓋をするのですか?」
ごとっ
カークが蓋を手放した。
マリーが体を震わせ始めた。
「こんなゴミを放っておくには……」
ざざざっ!!
カークが自身が蓋の代わりとなって多い壁さり穴を塞いだ。
顔を上げマリーに叫んだ。
「中に入ってゴミをかき出すつもりですか!! ですね?」
「あ、はい……よく分かりましたね」
「いい訳ないでしょ! そんな事後先考えずにやっても」
「それは……」
「体が先に動くんでしょう? いつもの様に!」
「あ、そうですね……」
「えらい事になる前にマリー様の行動を先読みしなければならないこっちの身にもなってください!!」
カークの一連の行動を見ていたビスケが感嘆していた。
(ここまでやれるなんて…………私も見習わねば!)
この後石の蓋を何も掘り返さずに穴にはめ、マリー達はトーマスの家を後にするのだった。
滑り込みで阻止。
カークのファインプレイですね。
取り敢えず一旦引き返す事に。
本番までしばらくお預けですかね?




