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第三十八話 雪の降る街







 馬車が出発した。

 マリーは前の右の席、ビスケが左。

 カークが後ろの右、フィリップが左。

 時刻は二時過ぎだった。

 パリまでは二時間足らず、到着は四時ごろとなる。

 これまでと違いかなりのんびりした移動だった。

 当然道中での会話となる。


 「九時に宿に引き篭もるのですか。もう少し観て回りたいところですが」


 「芝居が終わったらみんな帰っちゃいますからね。それ位の時間が適当だと思いますよ。私も芝居を時々見たりします」


 主にマリーの相手は隣のビスケだ。


 「どんなお芝居を?」


 「ええと、喜劇とか……」


 「オペラとかは?」


 「いえ、あまり歌劇とかは……」


 「そうですか。フランスのオペラはいい話を聞いたことが無いとモーツァルトも言ってましたが……」


 「え?誰ですか、それ?」


 「ああ、オーストリアにいた頃の知り合いです。彼が六歳の時の演奏会を見に行った縁で何度か会ってますが」


 「六歳で演奏会!天才ですか?!」


 「さあ、どうなんでしょうかね」


 気の無い返事をするマリー。

 話した割にモーツァルト自身には興味無さそうだ。

 

 「芝居の後も開業している所もあるのでしょう?」


 「そうですね、酒場とか」


 「後は……」


 「えっと後は……」


 「賭博場ですか」


 カークが反応した。

 

 「マリー様、まさか!」


 「いえ、貴族の道楽よりも平民の夜の暮らしを見てみたいだけですから」


 「そうですか……」


 カークは息をついた。

 

 「行く訳ないでしょう、賭博など。屠殺は行きましたけど」


 「!!」


 フィリップがびくりと反応した。

 うつむき固まってしまっている。


 カークがそんな彼を見て眉を顰めた。


 (これはマリー様のイメージがとんでもない方向に膨らんでるな)


 「おや……」


 マリーが窓から外の景色を見た。

 はらはらと白い大粒の雪が降り注いでいる。


 「……」


 マリーがフランスで見る初めての雪模様だった。


 「バジーさん、大丈夫ですか?」


 「ああ、何とかいけまさぁ!」


 バジーは分厚い外套と頭巾状の帽子で身を包んでいた。

 今日の天候を知ってか知らずか準備は万端整っていた。

 


 そして馬車が到着する頃にはパリの地は真っ白に覆われる事になった。





 パリをを囲む壁、そして出入り口となる60箇所の市門。

 馬車はここを素通りした。

 王族の者は税関の査察なしで通れる。

 つまり今回はマリーアントワネットとして入ったのだ。


 市内に入った馬車はまず予約した宿屋に向かった。

 宿屋ではマリーの名は隠す事にした。

 マリー自身の希望だった。

 という事で……


 「お父様」


 「は、はい〜!!……」


 馬車を降りたマリーが声をかけるとフィリップは直立不動で硬直している。

 

 「父親役よろしくお願いいたします」


 「私はこれからマーニャ・フィリップとしておきますので」


 「は、ははっ!我が名を使用して頂くとはあり難き幸せ!」


 「いえ、前にもフィリップの仮名は使ってたんですよ。偶然同じでしたもので。意外と良くある名ですね」


 「はっ!良くある名で光栄であります!」


 「あまり硬くならないで。肩の力を抜いて父親らしく」


 「は……い」


 何とかしようとしてるらしいが余計よく分からない状態になっている。


 「雪も降ってるのだし、とにかく入りましょうか」


 マリー達は宿屋に入って行った。





 季節感のある話は初めて?

 先は長いです。

 地道に更新できればと思います。

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