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第三十七話 夜のパリへ






 ヴェルサイユから夜のパリへ行くとなれば日帰りを諦めるかどうか迷うことになる。

 何故ならパリの花形である芝居やオペラは夜の六時から九時ごろまで上演されるからだ。

 そのため五時から六時の間は街路という街路は馬車ので埋め尽くされ騒音に悩まされるという。

 マリーはと言うと一度夜七時まで居残って帰宅した事があった。

 就寝時間から考えるとそうなってしまうのだ。

 これはマリーにとって物足りないものだった。

 と言ってもマリーは芝居やオペラが観たい訳では無い。

 真夜中のパリの実像を見たかったのだ。

 長らく気兼ねしていた夫に切り出し、了解をもらって出発する頃には結婚後半年経っていた。

 季節は冬、マリーは十五歳になっていた。



 「マリー様、私はいまだに賛成できません」


 カークはマリーにきっぱりと物申した。

 もうすでに行く準備は出来上がっていると言うのに。

 もちろん理由ははっきりしている。

 マリーがまた暴走しかねないからだ。

 パリ到着後のスケジュールもどこの宿屋に泊まるかも決められていた。

 できる限り王太子妃の安全を確保する形で行われる事が、初めてのパリで一夜を明かす条件だった。

 しかし。


 「マリー様は条件に不満があるのでは?」


 「それは……」


 マリーが口ごもるとカークは更に畳み込んだ。


 「マリー様がやりたい事は真夜中のパリの野外、しかもどちらかと言えば場末の物騒な場所の見聞でしょう。まさに危険そのものです!昼間に行った時も確かに生の平民の地域でしたが昼と夜では訳が違う。それに本当に場末という程の場所ではなかった。たとえ安全な予定計画を立ててもマリー様が黙ってその通りに行動できますか?」


 「……」


 痛いところを突かれていた。

 

 「そうですね……」


 否定しないのか、と思ったがそれでも行くのをやめる気が無いのでは意味がない。

 釘を刺すくらいしかできないのか。


 「とにかく決められた宿に九時には入って外には決して出ないように。室内なら安全です。宿屋の場所も安全度が高いのを選んでます」


 「はい……」


 (納得してないなあ……)


 カークの悩みは尽きない。





 カークと共に自室を出たマリーは馬小屋に向かった。

 馬小屋で待ち構えていた物はいつもと違った四人乗りの馬車だった。

 馬車の前でビスケとバジーがマリーらを迎える。


 「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 ビスケに促されマリーは馬車の中を見、なかった。 

 

 「?」


 マリーは馬車に繋がれている四頭の馬を観察し出した。

 マリー達が普段乗っている馬とは全然別の馬だった。


 (あ、そっちですか……)


 ビスケは主の何たるかをよく考えてなかった様だ。

 こういう人だった。


 「誰が馬を操るんですか?」


 「あ、俺出来ます」

 

 バジーが答えた。


 「実はこういうのやらされた時期があってね。ヴェルサイユの馬小屋って馬車もありますんでね。そっちに回された事もあるんでさ」


 「そうですか、バジーさんはとても重宝に働いてくれますね」


 「いや、使えるもんは使って下せえ」


 「ところでこの馬はどうなんでしょう?人を乗せるのでなく馬車を引っ張る馬ですからやはり……」


 「マリー様、聞きたい事があればヴェルサイユへ行く道中でお聞きください!」


 カークが割って入る。

 いつもの事だった。


 「それでは今度こそ中をご覧下さい」


 ビスケに促されマリーは馬車を覗く。

 内壁は金色の装飾を施され椅子には黒い革の覆いが付いていた。

 手で椅子を触るとふかふかした感覚が。

 かなり贅沢な作りをしている。


 マリーは自分とは別の空間であるこの馬車の室内を意識して乗り込むことにした。

 これも日常の鍛錬の一環だった。


 その時、馬小屋内に走り込んでくる人影が。

 ものすごい勢いで馬車にたどり着くとマリーの前にひざまずいて一気に喋り出した。


「マリー様、この程はわざわざご指名下さり有り難き幸せでございます! この上は我が命を賭けてマリー様をお守りする所存でございます!!」


 男は四十過ぎの創建そうな男だった。

 身なりは出来うる限りの上級貴族という格好。

 へり下りまくる男にマリーは穏やかに声をかけた。


 「おいで下さりありがとうございます。フィリップ伯爵。お供をよろしく願います」


 「はは〜! この上無きお優しきお言葉、感激に涙しそうであります!!」


 傍で伯爵を見下ろすカーク、ビスケ、バジー。

 

 (何とも悲壮な……)


 (なんか可哀想になってくるわ)


 (バカ息子持っちまったために……)


 彼はかつてパリにマリー達が訪れた時、バジーの馬を手下に盗ませた男の父親であった。

 部下の馬を奪った上、追って来たマリーに剣を振るったのだから一大事である。

 この事実をヴェルサイユで伝えた途端、彼はその場で卒倒してしまった。

 介抱しながらこの事は内々に済ませ、口外するつもりは無いと約束した。

 それからの彼はマリーに限度を超えた礼儀を以て接する事になったのだ。


 「それでは乗り込みましょう。伯爵様、お先にどうぞ。後ろは男性、前に女性でよろしいですか」


 「はっ誠にご聡明なご判断、感服いたしました!」


 そこまでやらなければいけないのか?

 この人の人生って今後どうなるのだろうか……





 やっと投稿できました。

 夜のパリ編はかなり長くなります。

 あれやこれや書いてしまうもので……

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