第三十二話 三人揃って
ショワズール公爵は庭園での散歩を控える様になった。
行けばまたマリーアントワネットに出くわしそうな気がするからだ。
確率から言えば相当低いはずだがそれでも警戒心が無くならない。
彼は今宮殿内の廊下を歩いていた。
角を曲がると前を歩いている小間使いを二人引き連れた女性の後ろ姿が。
ルイ十五世国王愛妾デュ・バリー夫人だった。
王室、貴族の中でも特に煌びやかな衣装に身を包んだ彼女はショワズール伯爵一派に拮抗する一大派閥を率いていた。
彼女に追いついたショワズールはまず挨拶を行った。
「これはデュ・バリー夫人、おはようございます」
歩みを止め振り返りつつ、彼女は返事をした。
「あら、これはショワズール公爵様、おはようございます」
「相変わらず御美しく。そして豪華なお衣装ですな」
「お褒め頂きありがとうございます」
言いながら目が光る。
王の庇護の元に彼女がどれだけ贅沢をして散財し、財政を圧迫しているかは言わずもがなだった。
身に付けてる衣装を持ち出して皮肉っているのだろう。
ここは反撃せねばなるまい。
「どちらへ? 庭園でしょうか?」
「あ、いえ……」
「いつも庭園には散歩にいらしてるじゃ無いですか」
「ああ、まあ」
「庭園といえばおかしな噂を。あそこでマリーアントワネット様が騒ぎを起こしたとか」
ぎくっ
「そ、そうですか」
「その時公爵様もおいでだったと聞いておりますが」
「いや、そんなことは」
「何がありましたの?」
彼女も噂は聞き及んでいた。
尾ひれが付くのが当然なので信じていなかったが、目の前の男が巻き込まれた事だけは事実らしい。
しかもネガティブな意味で。
「と、特に何もありませんぞ! 何かの聞き違いでは? マリー様とは別に……」
「おはようございます!!」
「うわっ!?」「ひっ?」
突然の声に驚く二人の間にいつの間にか少女が入り込んでいた。
「私がどうかしましたでしょうか?」
満面の笑顔で二人を見上げるマリーアントワネットの姿があった。
「……」「……」
数瞬、二人は声を失った。
いつの間に?
「こ、これはマリー様、おはようございます……」
「おはようございます……」
「お二人でお話がはずんでおられる様ですね。私の事で話がはずむなら嬉しい限りです」
(こ、これは明らかに牽制の言葉だ! 何という小娘! 大人の言葉の駆け引きに割り込む気か!?)
額に汗するショワズールを邪気の無い瞳で見つめるマリー。
デュ・バリー夫人もマリーを警戒の目で見ている。
「何の話ですか? 聞きたいです〜」
わくわくした仕草。
この状況でする仕草か。
「何もありませんわ。マリー様の話などはしては……」
「フルネームで私の名が聞こえましたけど……」
「うっ」
期待感に満ちた目。
何が嬉しいのだろうか。
最早相手にしてはいられないか。
「私は用事があります。ですのでこれで失礼します」
この言葉にショワズールも乗っかった。
「わ、私も国王陛下に用事がありますのでこれで……」
「あら、奇遇ですね! 私もこれから国王様にお会いに行くところだったんですよ!」
「えっ!?」
予想外の言葉にショワズールは狼狽えた。
こんな事ってあるのか?
「では一緒に行きましょう。では、デュ・バリー夫人様、これで失礼します」
「…………」
軽く促がす様にしてショワズールをその場から連れ行こうとするマリーをデュ・バリーは睨みつけている。
「お待ちなさい!!」
「何でしょうか?」
「私がこの時間に行く所など決まっているでしょう!!」
「はい?」
(この娘……わざとか?……)
こうしてマリー、デュ・バリー、ショワズールの三人達はぞろぞろと国王の元へ向かうのだった。
三人揃えば姦しいのか三竦みなのか三つ巴なのか。
はてさてどうなりますか。




