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第三十一話 ショワズールの難儀






 二度目のパリ見聞が終わってからマリーは精力的に動き続けた。

 まずパリの外れの農地へ赴いた。

 現地の農夫と直接対話を行った。

 

 「畑と牛飼いをやっておられるのですか」


 「ああ、そうだ」


 「肥料などはどうされてますの?」


 「う〜ん、そうだな……」


 このような事を質問する貴族王族など、しかも十代半ばの少女なんてのは普通あり得ないだろう。

 一応素性は隠しているがいつばれてもおかしくない。

 まあ、ばれても気にしそうに無いけど。

 基本的にはカークとビスケ、そして時にはバジーも帯同して見聞を行っている。

 彼らはマリーが何を考え何をしようとしているのかを断片的にしか分からない。


 シルク・ディヴェールにある大貯水槽とポンプ場も見た。

 この貯水槽はポンプで昼夜を問わずに組み上げられた水が満杯になると放流される。

 高度差から生じる水圧を使って下水溝を洗い流す仕組みになっているのだ。

 このシステムがどれだけの効果があるのかは判断が難しいだろう。


 朝の生ゴミ回収の様子を調べたりもした。

 清掃人夫が各家庭が夜のうちに出した生ごみを回収し荷馬車で運ぶ。

 しかし完全に取りきれずに残ったゴミが道に散乱ししてしまう。

 運ばれたゴミは市外の投棄場に捨てられ埋められるが、途中で捨ててしまう物臭な人夫がいる始末だった。



 マリーが数回パリを訪れたその時間帯は午前と昼だけだった。

 夜の、いわゆる大人の世界のパリはまだ足を踏み入れてない。

 日帰りである事、まずやる必要がある事の順を考えて夜は控えていたのだ。

 もう一つ、まだ十四歳だという事もあった。

 まあ一応人妻だし、行っても構わないのかも知れないが。


 こうしてマリーがフランスに嫁入りしてから四ヶ月になろうとしていた。


 



 

 彼は闇の中を突っ立っていた。

 こんなところに何で自分は立っているのか。

 突如背後から馬の足音が聞こえてきた。

 振り返る間も無く風圧が襲い掛かり、彼の体は捻る様にして揺らぎまくった。

 恐慌状態になる彼の傍に闇をくり抜く様に真っ白な馬が駆け抜けていく。

 その上には金髪をたなびかせて高揚した表情で微笑む少女の横顔が見えた。

 自分の存在など気にも止めずに通り過ぎて行くその横顔。

 彼女が何者かを認識した瞬間、体の揺らぎが最高潮に達して足が宙に浮いた気がした。

 そのまま彼は落下して行った。

 

 「うわああああっ!」


 彼は目を覚ました。

 そう、夢だったのだ。

 彼はここしばらく同じ夢を何度も見ていたのだった。

 

 「何だか初めて見た時より中身が大げさになってはいないか?」


 汗だくの顔で呟いた。

 そう、最初に見た夢は、というより現実には驚きよろめき地面にへたり込んだだけだ。

 その時見た横顔は笑ってなかったはずだった……けど。

 何が夢を誇張させるのか。


 「私は……ショワズール公爵だぞ! あの国王さえも畏怖させた」


 そう、彼は実質的に権力の頂点の座に付いた男だったのだ。

 策謀と謀略を繰り返しそこまで登り詰めた。

 その為に国王の息子、つまり今の王太子の父が急死した時も、その妻マリー・ジョセフ王太子妃が急死した時も自分の仕業だと噂をされた。

 本人としては実に心外な話だがそれだけの権力を持っているとの証明でもあった。

 

 「それなのに……」


 その権力の勢いが衰えたのは三年前だった。

 財政運営が上手くいかなかった。

 外交も滞りを見せていた。

 名目上の権力者と違い実質的な権力者はそれに見合った政治的な成果ももたらさなければならない。

 それが立ち行かねば……


 王の態度が変わった。

 あれだけ弱腰だったのに三年かけて少しづつ押し返してきた。

 王太子も成長と共にあの呑気な話し方をしてくる様になった。

 このまま下降線を辿ってなるものかとオーストリアとの関係強化を画策した。

 政略結婚でオーストリア王家の姫を迎え入れるよう図ったのだ。


 ところが……


 これがとんでもない規格外品だった。

 結婚の儀の際には自分を頼ると思っていたが、全然そんなか弱さを見せず自力でしっかり事を運んでいった。

 多少フランス王家の流儀と差異があろうとも気にもしていなかった。

 母から何かあったら自分を頼れと言われていた筈にもかかわらずだ。

 結局存在感を見せられずに終わってしまった。


 その上、馬を勝手に奪い走り回った挙句、あの出来事を……

 今にして思えばあれこそが歯車の狂ったきっかけだった。

 あれがトラウマとなり、それから何もかもが上手くいかなくなっている。

 自分の強気に足枷がかかってしまった感じだった。


 (この苦手意識を何とかしなければ先が見えん!)


 彼にとっては深刻そのものであった。

 





 この作品を何話か書いてる途中でショワズール公爵を調べていく内とんでも無くえげつない男と知りました。

 で、今まで書いたショワズールとのすり合わせをやっております。

 それだけで話ができてしまう事に……

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