第二十五話 相席食事
「それじゃまたな!」
「はい、金槌は必ず二度以上ぶち込んで下さいね」
「おう」
馬に乗ったマリー達は屠殺業者達に盛大に見送られて立ち去って行く。
「さあ、それでは腹ごしらえですね」
「楽しみですね!」
「ふう……」
「メシ食うだけでため息かよ」
程なく彼らは店に着いた。
通りにぶら下がる大きな看板の群れ、その中の一つに店の看板があった。
看板に書いてある文字は『ラグーの店』。
「そのままだな。いいけどよ」
突っ込むバジーだがここで問題に気付いた。
「マリー様」
「店に入ったらマーニャで願います」
「それはいいけど……馬どうしやす?」
「あ……」
平民向けの店に馬車を預かる場所など有りはしない。
近くにそれらしい施設も見当たらない。
「どうしやす?」
「ふはははははぁ! こう言う時こそお前の出番だあ!」
カークが豪快に笑いながらバジーの肩を叩いた。
「一緒に来てくれて良かった! お前はここで馬を見ておいてくれ!」
「何〜!?」
「私とビスケはマリー様を護衛する義務がある。だからお前しかいない!」
「あ、そうかぁ。バジーさんありがとうね」
「俺がいつ了解した?! 勝手に話を……」
「バジーさん、私がやりましょうか?」
マリーが手を上げた。
「……いやあんたが店入らないでどうすんだよ? マリー様のためにみんなで来たんだからよ」
「では?」
「ええい、俺がやるよ!! 行って来なよもう!」
「すみません。持ち帰り出来る物があったら買って帰りますので」
「いいから早く行ってくれ!」
こうして三人が店に入る事になった。
中に入るとそれなりの客が入っていた。
マリー達の姿を見て彼らは一斉に振り返った。
貴族軍人男装っぽい女性、かなり場違いに見えたのだろう。
マリーは店の主人らしき男を見つけ歩み寄った。
「三人お願いします。ブーシェ(屠殺業者)のガブリエルさんの紹介で参りました」
店の主人は三人の見栄えと台詞の両方にたじろいだ。
ガブリエルは知っているが何でこんな身分の人たちが屠殺業者の紹介でやって来るんだ?
「……な、何ですか?」
「もちろん食事ですよ」
ここでカークがずいと一歩前に進みマリーの横に並んだ。
2m近い大男に見下ろされては何も言えない。
主人は四人掛けの長椅子のあるテーブルを指差した。
「そっちが空いてます」
「ありがとうございます」
テーブルに仔牛のラグーとポタージュが三人分並べられた。
「それではありがたく食します」
皿を並べた主人がマリーの言葉に当惑する。
こんな台詞を食事前に言う習慣、貴族にあったっけ?
とにかく当たり障りの無いように彼はその場をそそくさと離れた。
他の客がこちらをチラ見している中、悠然とマリーはラグーをフォークで口に運んだ。
「ん、美味しいです。素材の味も生きてます」
カークとビスケも食べ出した。
感想などは特に言わないが。
「おーい空いてるか?」
一人の男が店に入って来た。
「ええっと……」
店の主人が店内を見回す。
こういう店は相席が当たり前だった。
店主の顔がみるみる緊張していく。
「あちらが……空いてます……」
示した先はマリーの隣の席だった。
テーブルに陣取る三人を見て怯む男の方に向いてマリーはにっこり微笑んだ。
「どうぞどうぞ」
(何だこの人達……)
今回だけ一日二回更新です。
こんなの二度とないかも。




