第二十三話 下水道を観察する
一行は馬に乗って西の端シャイヨーに向かった。
「ここでさぁ」
下水道からセーヌ川に下水をそのまま放流している。
テュルゴー下水道というパリを東西に半周している大下水道である。
「色が汚いですねえ」
マリーの言う通り川に注ぎ込まれる下水は茶色い濁りが見受けられた。
「これがセーヌ川に流れ込んでるんだからひでえもんですよ。しかもこの川の水を飲むんですぜ」
バジーはため息をつきながら続ける。
「ここじゃ給水所で水を汲んで使うんでさ。水売りなんかがそれを売ってる。水売りは結構な商売なんでさぁ。しかし混雑してる給水所じゃなく川の水をそのまま汲んで売るろくでもない奴もいる。それを買って飲むって訳で。まあ給水所の水も元々セーヌ川の水を浄化したもんでさ。どこまで浄化できてるのか当てにならねぇけど」
「なるほど……そうなのですか」
マリーは硬い表情でうなずいた。
「俺はここの近くに住んでるからよく知ってるんですよ。だから水は一度火で煮込んでから使う様にしてる。だがそのまま飲む奴が多い」
バジーの説明をじっと聞き入っているマリー。
ビスケとカークも真顔になっていた。
彼らは元々パリの住人なのだから。
「現状、よく分かりました」
「マリー様。他所から来た人はお腹を壊しやすいのでお気をつけてくだせえ」
「お気遣いありがとう。次へ行きましょう」
一行はシャイヨーから川沿いに東へ進んだ。
ルイ十五世広場という場所に着いた所で北上した。
フォブール・サントノレと呼ばれる所に着いた。
「馬を降りましょう」
マリーの一声で全員馬を降りる。
並木町まで存在するサントノレの大通り。
人々の往来も賑やかで興味を引きそうな場所。
通りを一望してマリーは言った。
「もう少し狭い道に行きます」
うわっ始まった!
とカークは思った。
これが趣味ならついていけない所だ。
こうして一行が入り込んだのは馬車がすれ違う余裕が十分ある、というくらいの道。
マリーは前回同様に傘をさす事にした。
片手で馬を引き片手に傘という状態。
まずマリーが目につけたのが道の真ん中の溝だった。
「下水路ですね」
「はっ」
「道が真ん中に向けて少し下り斜面ですね。どこもこうですか?」
「そうでさぁ」
バジーが答えた。
「これで雨の日も水はみんな真ん中に集まる。まあ溢れ出る所ばっかりですがね」
苦笑するバジー。
「この下水路が下水道につながるのですね」
「そう、この下水路が街の通りに網の目みたいになってて下水道に流れ込むって事で」
「各家庭に下水路が繋がって下水路が下水道に繋がってる。でも……」
マリーが眉を顰めた。
「うまく繋がっているとは……」
「言えませんねぇ!」
バジーは我が意を得たりという表情になった。
「そうでさぁ! 雨が降ると溢れるくらいだから詰まってるんでしょが。それにだ、下水道は元々蓋がないから手入れが簡単だったんでさ。ところがです。そこに蓋して家を建ててるんですぜ」
「えっそれは何ですか?」
さすがのマリーも色を失った。
「言った通りでさ。土地を売る方も売る方だ。そんなことしたら家の持ち主が蓋開けてゴミ下水道に捨てるに決まってるって。カークにビスケさんよお、こんな話知ってたか?」
「……」
これには二人とも黙り込んでしまった。
「バジーさん、あなたを連れてきて本当に良かったです。この街の裏を良く知っていらっしゃる」
「いや、こんなのここに住んでりゃ……」
「いや、お前は我らよりパリに詳しい。認める」
「そうですバジーさん、凄いです」
「バジーさん、これからは貴方の事を物知りバジーと呼ばせて頂きましょうかしら?」
「え! ま、待った! それ絶対違う、違うって!!」
「うふふふ、それはそうと。下水路の様子は道を進みながら観察し続けますが、とにかく街の中心に行きます」
そう言うとにっこりマリーは笑った。
地味な話が続きます。
しばしお付き合いをw




