第二十二話 パリ再訪
一度目のパリ見聞から一週間後。
「これより二回目のパリ見聞をします」
「はいっ」「はっ」
ここはヴェルサイユ宮殿の馬小屋である。
すでに準備は万全に整っている。
マリー、カーク、ビスケの三人はそれぞれの馬の前にいた。
「行く前に行っておきたい事があります。今回の課題は……」
課題の一言にカークが反応する。
前回パリからの帰りにマリーが言っていた言葉だ。
「……下水です!」
「下水?!」
「そう、下水の処理を見聞します。パリの下水の実態を知らねば改善の計画も立てられません。だからこの目で見ます」
「改善!?」
「はい。いずれはやらねばならない事です。なら今から準備しておかねば!」
「マリー様凄いです!そんなこと考えてるとは!」
目を輝かせるビスケとは対照的に渋い表情でカークは尋ねた。
「しかしそれは余りに困難な事業では?過去に試みられて頓挫した事も多々あると聞いております」
「その通り。私自身単なる王太子妃ですしね。だからと言って諦める気は毛頭ありません」
王太子妃が単なるとは言い難いが治世に関わるには確かに至らないだろう。
せめて王妃にでもなれば。
しかしそれを早く実現するのを願う訳には絶対にいかない。
「皆さん、自分にやれる事をやり遂げましょう。私の部下である以上はその事は忘れないでください」
「はいっ!」「……分かりました」
重い、とカークは思った。
自分にも我が主マリーアントワネットにも。
一体いつからそんな覚悟を身に纏ったのだろう。
「では、出発します!」
明るく元気な声が馬小屋に響いた。
「と、言いたいところですが」
え??
二人の顔にも??が浮かぶ。
「ここで新たに一緒にパリ見聞する方を紹介します」
「何ですとお〜?!」「え〜??」
「それでは……バジーさんで〜す!」
「俺、別に行かなくていいけど……」
バジーがぼそっと声を漏らした。
彼はひょんなから成り行きでマリーと関わった人間だが馬小屋の作業員でしかない。
「そう言わず来てください。あなたはパリ住まいで詳しいでしょう」
「カークもビスケも知ってるでしょうが」
「まあ、あなたがいればきっと賑やかで楽しくなるでしょう。お願いですから来てください」
王女の頼みでは断る訳にはいかない。
「ええ〜い、行きますよ!喜んで!!」
「ありがとうございます。感謝この上ありません!!」
その様子を見てやれやれと言った面持ちのカーク。
ビスケは特に意思はない。
「それでは今度こそ本当に出発します!」
「へえ……」「はい……」「はっ……」
バジーはパリから自分の馬で通っていたので一緒に行くのに問題はない。
ちなみに馬の色は灰色で名前は×××。
持ち主が決まるまで適当につけた危ない名が結局持ち主が決まらずそのままになってバジーの馬になったのだ。
四人は大通りを馬で走り切り、程なくパリに到着した。
壁と柵に囲まれたパリの街。
60ある市門の内マリー達は前に通った所の隣の市門に向かった。
できるだけ素性がばれない様にするためだ。
今マリーは宮中で着ている衣装よりレベルを幾分下げた物を身に付けている。
下級貴族レベルだろうか。
ビスケに用立て貰ったのだ。
長い金髪はボンネットと呼ばれる頭巾状の革製の帽子で隠していた。
この万端整ったお忍びファッションで彼女達は市門を通過したのだった。
「と言う訳で私は誰でしょう?」
「ええっ?! マリー様、どうかされましたか!?」
ビスケが狼狽えつつマリーに問いかけた。
カークが首と手を同時に横に振る。
「ビスケ、そうじゃない。マリー様は素性を隠すために自分以外の誰かに成り切ろうとされているのだ」
「あ、そうだったのですか。びっくりしました」
「とにかく名前くらいは偽名で行きましょう。マリア……では似すぎですか。マーニャ……マーニャでいきます。マーニャ・フィリップとでもしておきましょう」
何事もなくあっさり決まってしまった。
マリーにしては珍しい事かも。
「では第三者がいるときはマーニャでお願いします」
「はっ」「はいっ」「へい」
パリにまた来ました。
マリーの思惑が表れそれに事件がかぶさるパターンです。
事件の方は続きの話で。




