第百九十二話 後始末
「ん?」
「なんです、今の?」
カークとビスケはマリーを探し回っている最中に歓声らしき声を耳にした。
「この辺りで今、歓声なんて起きるのか……?」
嫌な予感がする。
二人は頷き合うと声のした方に駆け出した。
十字路の角を曲がると人垣ができている。
その人垣をかき分け中に入ると……
やっぱり〜!!
「マリー様!! また…………」
「しでかしましたね…………」
そこには二人の倒れた男の目先にナイフを突きつけて立つマリーの姿。
歓声の後の拍手が辺り一帯に鳴り響いた。
「恥 を 知 り な さ い !!」
拍手がぴたりと止んだ。
ジャックを見下ろすマリーの目から涙がこぼれ落ちた…………
「本当に何をしでかしたんだ……?」
遅まきながら駆けつけた警備兵の前でマリーは事情説明とも説教ともつかない言葉を放ち続けていた。
敗れた小麦粉の袋を取り繕いながら。
「小麦粉でパンを作る。パンで食を満たすのです。パンが高くて手に入らない。その言い分ならまだ分かる。だけどパンが高過ぎるからという理由で小麦を無駄にする事が許されるなどあり得ません!!」
「なんか色々あったんだな……」
「そうですね……」
カークとビスケが見守る中マリーは懐から紙を取り出すと……なんと荷台に溢れた小麦粉をすくい始めた!
何もそこまで!?
これにはこの場にいる者全員目が点になってしまった。
荷役人夫が慌てて駆け寄る。
「王妃様、もうよろしいですから……」
「我慢なりません!!」
「ひっ!」
声だけで人夫が跳ね返った。
「お、お許しを!」
「パンに、人々の食糧になるはずだった小麦粉が失われるのが我慢なりません!!」
また涙がこぼれ落ちた。
もうこうなると近寄り難い。
遠巻きにしている観衆達は何かの演劇でも見ているかの様な状態になっていた。
事件の犯人達は警備兵が拿捕しているので、後は詳しい事情を王妃から聞きたい所だが今は無理だろう。
こういった場合はどうしたら……
カークとビスケはマリーに近寄り声をかけた。
「マリー様……私たちにも小麦粉の回収をさせて下さい」
「…………紙ですくって下さい。これで……」
懐から紙を取り出した。
何かのメモ用紙だろうか。
手渡されると……
「これ目安箱の書類じゃないですか! いいんですか?」
「ああ、大した内容でない物です」
「…………」
まだ涙も乾いてない状態でこれかよ……
三人は多数の取り巻きの視線に晒されつつ小麦粉の後始末をちまちまと続けるのだった。
我慢ならない事。
マリーにとってはこれでした。
人柄を窺い知る部分ですね。
自分など米櫃に虫が湧いたら諦める人間だというのに……情けない。