第百八十四話 城下町へ
マリーはいつもの様に早朝のランニングを行っていた。
朝早い事、警備は外への警戒に比重を置いていた事がマリーのフリー状態を可能にしていた。
マリーは目安箱の小屋に入ると鍵で箱を開けたが何も入ってない。
物々しい空気がこの辺りを近寄り難いものにしているのだろうか。
マリーは小屋を出ると北側を見た。
単純に考えればこっちから?
さすがにそうとは限らないだろう。
「…………ええと」
首をひねるが。
「とにかく行ってみるしかない!」
マリーは走り出した。
「マリー様はどこに!?」
カークがマリーの部屋で叫んでいた。
言われていた朝の七時より半時間早く迎えに来たのに。
「もぬけの空ですね……」
ビスケが眠い目を擦りながら相槌を打った。
「冗談じゃないぞ! 護衛の面子が丸潰れだ」
憤るカークの後ろでビスケが当たりを見回すと。
「あれ? 机の上……手紙です!」
二つ折りの白い紙にカークさんビスケさんへと書かれている。
ビスケが手紙を取って開くと。
『お二人さん、七時に集合と言いましたが私は六時前に出ます。ちょっと盾としての役目を果たしに行ってきます。嘘を言ってごめんなさい。なのであなた方には一切責任は有りませんので。それではお元気で』
「何を言っとるんだああああ!!」
完全にカークはぶち切れてしまった。
「とにかく追いかけましょう!」
「その手紙は……国王様には見せるな!」
「え?」
「見せれば心配なされるし、ずっと主に張り付けなかったのは我らの責任だ。今更マリー様に何かあった時責任逃れする気はない。この命をかけてマリー様をお守りする覚悟はできている。ビスケ、お前は……」
「もちろん私もです! 今更ただの女に戻るなんて無理です。マリー様に責任取ってもらわねば!」
「何だそれは……」
「とにかく行きましょう! マリー様が行きそうなところへ」
「ああ」
二人は宮殿の外へと駆け出していった。
そして国王ルイ十六世は………………まだ睡眠中だった。
マリーは宮殿の西方小トリアノンにいた。
回り道になるが、ここからなら宮殿周辺に陣取る警備の目も届かないだろう。
マリーはヴェルサイユの様子を見て宮殿自体の警護は万全だが肝心なのはそこではないと思った。
争いが起こるのはパン屋であり市場であり小麦粉の貯蔵庫などだ。
商人と小麦粉を取引する荷役人夫やパンを安く手に入れたい貧困層などは宮殿より目の前の食糧が重要なのだ。
もちろんそれらにも人員を送っているはずだが。
ヴェルサイユの人口はパリに比べて全然少ない。
どうすれば…………不穏分子と化した民とかち合えるのか?
物騒な考えをしながらマリーは建物の外に出た。
「では……まず市場に行きましょうか」
マリーは一人歩を進める。
城下町に向かうマリーですが。
今回はカークとビスケとは別行動です。
一人にしておいたらどうなるのやら……