第百八十一話 王妃を止めるには
「私も市外へ出ます!」
「何ですと!?」
いや、出てどうするの?
それって……
テュルゴーが目の色変えて叫んだ。
「暴動の現場へ行くつもりですか〜!!」
「それも有りですね」
「ないです〜!!」
(ええっと……)
テレーがなんとか思いとどまらせる手を考える。
「……あの、暴動が起きたと聞いてから行っても遅すぎるのでは?」
「そうですか?」
「なんせ市外で国内のどこかですから」
「間に合いませんか?」
「間に合っても駄目でしょう!!」
今日何度目かの突っ込みをテュルゴーが入れた。
部屋の外では警備役の一人としてカークも任にあたっていた。
室外まで漏れる突っ込みの声に浮かない顔でつぶやく。
「私と同じ苦労をしているのか……同情してもどうにもならないが」
と、その時廊下をこちらに早足で向かってくる貴族の姿が見えた。
執務室の前までくると警備兵達に一声掛けた。
「緊急の報告だ、入る」
彼の顔を知っていた警備兵は無条件でドアを開いた。
「失礼致します!」
振り向く三人。
彼は部屋にマリーがいる事も気に留めず話し出した。
「報告します! 昨日二十七日にボーモン・シュール・オワーズ、すなわちボーモン村にて暴動が起きました!!」
「何!!」
テレーが叫んだ。
テュルゴーも驚愕の表情を隠せない。
マリーは驚きながら声を絞り出した。
「なんと…………昨日ですか?」
ボーモン・シュール・オワーズはパリの北にある町である。
パリからの距離はパリ〜ヴェルサイユ間の倍程あった。
マリー達は国王の元へと向かった。
国王はすでに暴動の報告を受けていた。
「まだはっきりとした事は分からない」
王はマリー達に答えた。
荷役人夫や下層民達がパンが買えないと警察署長代理に詰め寄り小麦粉の値段を下げる約束をさせたのだという。
他にも色々と揉めたそうだが詳しい事はまだ判明していない。
「……まさしく!」
ため息をついて出たマリーの一言に王が問うた。
「何がまさしくなのだね?」
「話を聞いた時にはすでに一日経っているのです。先程テレー師がおっしゃりました。聞いた後に行くのでは遅すぎると」
「行く?」
テレーが慌てふためいて割って入った。
「あ、いや、マリー様が市外の暴動の様子を気になさいまして! しかしこれで聞いた後に行っても仕方ないとお分かりになったと思います」
「ああ、そう言う意味ね……」
(な、なぜそんな平然と受け流せるんだ?!)
この夫婦は一体……
「王妃でありながら暴動の実情を確かめたいとは。君はよくパリへ出かけるが暴動に遭った事はあるのかね?」
「いえ、ありません……」
「暴動を甘く見ないように」
「はい……」
王の前でうなだれるマリーをテレー、テュルゴー、それに警護のカーク達が凝視していた……
国 王 様 〜 !!
王妃を沈黙させてのけた国王に対し彼らは畏敬の念を持たずにはいられなかった。
マリーは色々と戦っている割に暴動には遭遇してませんね。
にしてもマリーを止めるのは大変でしょう。
王様頼みでは限界があるだろうし前途多難ですね。