第十八話 路上の攻防
牛が突然カーブを切って幼児からそれた。
うんもおおおお〜っ
皆が驚愕の目で牛を凝視している。
なんと牛の背にマリーアントワネットがまたがっていた。
と言うより牛の背に張り付いていた。
左手で牛の鼻をつかみ右手で右の角を握って引っ張っている。
右側にそれて走る牛が壁に激突した。
どごんっ!
頭をぶつけた牛はそのままぶっ倒れてしまった。
そのすぐ側には直前で牛から飛び降りたマリーが尻餅をついている。
「マリー様!」
カークがマリーに飛びついた。
「ご無事ですか?!」
「子供は!?」
「無事です!」
言いながらビスケが幼児に走り寄り抱き上げた。
「牛は!?」
「えっ?」
カークとビスケが牛の方に振り返るとぶっ倒れていた牛が身を震わすと起き上がり出した。
「無事です〜……」
顔を青ざめさせてビスケが答えた。
マリーとカークが牛から離れる。
おっとり刀で屠殺業者らが牛に接近する。
うもおおお〜!
吠えて威嚇する牛。
再び睨み合う。
その間マリーはカークに指示を出していた。
「カークさん、できますか?」
「やります!」
カークは立ち上がると腰の木槌を手に取った。
地面に木槌を置いた。
「せいっ!」
ばきいっ!!
激しい音が響き渡り牛がカークに振り向いた。
そこには木っ端微塵に破壊された木槌の破片とカークが高々と掲げた大金槌があった。
派手なパフォーマンスで牛に注意を向けさせたカークが前進する。
牛が一瞬たじろいだ。
一方マリーとビスケは屠殺業者の方に移動していた。
カークとマリー達が牛を挟む形になった。
マリーはビスケの抱えていた幼児を受け取ると叫んだ。
「ビスケさん!」
「はい!」
ビスケが上着からナイフの束を取り出すと後ろを向いてる牛の尻に投げ始めた。
しゅっしゅっしゅっ
ぶすっぶすっぶすっ
ナイフは正確に牛の尻に突き刺さった。
んもおおおお〜!
文字通り尻に火がついた状態になった牛が反射的に前進する。
そこにカークの大金槌が牛の額に振り下ろされた!
ばぎぃっっ!
激しい音響き渡る。
カークは骨の砕ける手応えを感じた。
牛は頭から血を吹き出しながら不規則に体をぶる付かせ出した。
「カークさん!」
「はい!」
もう一度大金槌を振り上げる。
「ええい!」
どごっ!!
二度目の攻撃を喰らった牛は遂に動きを止めた。
ふわりと体を傾かせてずずんと地に伏せた。
屠殺業者らが警戒しながら牛に近づき、その絶命の確認を始めた。
マリーは抱き抱えた幼児を地面に立たせた。
「もう大丈夫ですよ」
幼児は駆けつけた親に無事に引き渡した。
やっと一息ついたところでカークは当然の如くマリーに小言を言い出した。
「マリー様、なんであんな無茶を……」
「お待ちなさい、まず牛の後始末を」
マリーは屠殺業者の一人に声をかけた。
「大変でしたね。こちらの判断で勝手に牛を倒してしまいました。ご了承ください」
「いや、そんな事よりあんたらなんなんだよ?」
珍しいもの見るような目で尋ねる男。
「私はマリー。こちらは部下のカーク。そしてあちらが……」
屠殺業の男達に混ざって牛の尻からナイフを抜き取ってるビスケを見て。
「ビスケです。私たちはヴェルサイユから来ました」
一応名乗り方はお忍びモードだ。
「そうでなくてなんであんな事ができるんだって聞いとるんだ。俺らでは到底無理だ」
「そうですね、まずあの牛を処理してからですね」
屠殺人達が牛を引っ張り屠殺場へ運んでいる。
「なぜあなた方が牛を取り逃したかも考えねば。今後こんな事が無きように。あなたのお名前は?」
「俺はガブリエル。ここの親方やっとる」
「そうですか。とにかく中へ入りましょう」
「マリー様、ですからいけません!」
「屠殺はもう見学させて頂きました。カークさんご苦労様です」
「うっ……」
「ここまで関わった責任上最後まで見届けたいです。良いですね?」
「……もう勝手にして下さい!」
R15にして良かったという話でした。
しばらくそんな感じです。