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第百七十九話 物価上昇の先




 



 食事を終え歯を磨いたマリーの次の行動は国務大臣テュルゴーと財務総監テレーのいる執務室に向かう事だった。

 彼らとは話しておかねばならない。


 一方そのテュルゴーとテレーはというと……

 テュルゴーの方は穀物取引の自由化を今年に入ってやっと実現した。

 テレーの反対を押し切るのに年を越してしまった。

 テレーの方は毎年の穀物の平均収穫の洗い直しを行なっていた。

 平年の収穫とされる量に実際の収穫が一度も届いていない事実を知り、詳細な統計調査を出そうとしたのだ。

 これにはテュルゴーが反対していた。

 潔癖な性格の彼が反対するなど考えられない事だったが何故かこの部分に関してはゆるかった。

 潔癖と完璧は違う。

 人は完璧などではなくどこかに穴があるものなのだ。

 だから二人いれば互いに穴を埋め合う事もできるだろう。

 過程に於いて衝突が起きるにしろ。


 「小麦とパンの値段の上昇だが」


 机を挟んで向かい合うテレーの言葉にテュルゴーが即座に反応した。


 「何をおっしゃりたいので?」


 「以前にも物価の上昇はあった。今以上にな」


 彼が数年前今の仕事に就いた時の飢饉の事か。


 「しかしそれはそれ。今回の場合だが……十八日のブルゴーニュ州のディジョン市場の暴動。あれは……」


 「あれは?」


 「暴動は起きてはならない事だが珍しい事ではない。しかしあれで終わるのだろうか?」


 「飛び火すると?」


 「何と言っていいか分からぬがこの国でくすぶった空気を感じる。先の国務会議でも仄めかしておいたが」


 「理屈で説明できませんか?」


 テュルゴーの身も蓋も無い問いにテレーは苦笑した。


 「それができれば苦労はない。情報が足りないな……」


 こつこつっ


 ドアのノックが聞こえた。


 「マリーアントワネットです。お邪魔してよろしいでしょうか?」


 「どうぞお入り下さい」


 そそくさとマリーが入って来ると開口一番、二人に質問を浴びせた。


 「不躾で失礼ですが……お二方、昨今の物価の上昇をどう思われますか?」


 二人はマリーを怪訝そうな顔で見た。


 「……今、その話をしていた所です」





  「なるほど、暴動ですか」


 マリーは頷くと考え込む仕草をとった。


 「それは……予測していませんでした」


 「まだ決まった訳ではありません」


 テレーはため息をついた。


 「まだ国王様に話してない事を王妃様に話すとは……」


 「何なら私から話しときます」


 また無茶を言って!


 「後で正式に伝えますので! それよりお尋ねの物価の上昇ですが……」


 テュルゴーが言う前にテレーが答えた。


 「穀物が足りない。単純なものですよ」


 「不作ですか……」


 「ただ単純な事すら複雑化するのが問題で……」


 「テレー師、王妃様に愚痴ってどうします!」


 「ではテュルゴー殿のご意見を王妃様に……」


 「……つまり物価が上がっても飢餓に陥る程不足はしてない。飢餓より物価の上昇の方がましです」


 「まし、ですか……それで済ます訳には」


 テレーが再び口を挟んだ。


 「外国からの輸入もヨーロッパ全体で穀物が不足していますので価格はフランスより高い」


 むっとするテュルゴーだが彼も黙ってはいない。


 「慈善作業場を増やして国民の購買力を高める施策を進めております」


 慈善作業場とは貧民に労働の場を提供するための 施設を言う。

 賃金が支払われ彼らにに購買力を付けさせようという訳だ。


 「ふ〜む」

 

 首をひねるマリー。

 何か違和感でも感じてるような。






 物価上昇と暴動。

 パリの外での騒ぎです。

 今までパリの外の話は少なかったのですが……

 マリーは何を思うのでしょうか?

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