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第百七十七話 食後



 



 「無事に食しました……どうでしたでしょうか? お味の方は……」


 食事を終えて皆が席を立つ前にマリーは食事の感想を聞く事にした。


 「うむ問題なし。いつものと同じだ」


 王が答えるとマリーは他の者達をさりげなく見渡した。


 「美味しかったです。パルマンティエは初めてでしたけど食べた事のない食感でした」


 エリザベートが答えるとマリーは満足そうに笑った。


 「他の方も宮廷料理と遜色ないとのご意見でよろしいでしょうか?」


 「はい」


 クロティルドが声で返事をして他の者は首を縦に振る事で返事をした。

 マリーは料理長に振り向いた。


 「さすが宮廷料理と変わらぬ味でしたね。しかも一人一人に一食づつ分けて出すのがよろしいです。宮廷料理は大皿にまとめて盛り付けるから席によっては有利不利が起きますからね。実に合理的です」


 「いえ、それは王妃様のご意見を取り入れたからです。良き御助言をありがとうございます」


 「これで安心して明日からの開店を見届けられます」


 「ははっ」


 王家からお墨付きをもらった。

 後は護衛の兵士や店の周りに詰めかけた野次馬連中が話題を拡散してくれれば良い。

 殊勝な顔しながら腹の底で料理長はにやけまくっていた。

 

 「では」


 席から立つとマリーは小物入れからブラシを取り出した。


 「私は歯を磨きに行って参ります。皆さん、今回はこれでお開きに致しましょう」


 「ああ、私も磨こう」


 王も席を立つが周りはきょとんとした顔になった。

 歯を磨く……?


 「王妃様、歯を磨くって?」


 エリザベートの問いにマリーは笑って答えた。


 「食事の後に歯をブラシで磨いているのです。末長く歯を大切に使うため」


 「?」


 「先先代国王ルイ十四世様は四十代には歯がほとんど無かったそうです。私は昔から歯を大事に手入れしています。綺麗な歯を保ちたいので」


 マリーは歯を見せて微笑んだ。

 傷ひとつない美しい歯。

 歯を見せる習慣のない王室にあってこれは反則だがエリザベートは不快感をまるで感じなかった。


 「食後なので余り綺麗ではないですが痛んでる所が無いのは分かるでしょう」


 「いえ、とても綺麗です!」


 「それはありがとう」


 「私も歯を磨きたい!」


 突然のエリザベートの声は力強かった。

 

 「……そうですか」


 マリーは食卓を回るとエリザベートの前に立ち小物入れからブラシを取り出した。

 

 「これをお使いなさい。新品です。磨き方も教えます」


 びっくりしながらエリザベートはブラシを受け取った。

 

 「あ、ありがとうございます!!」


 まるで宝物でももらったかの様に歓喜の声を上げるエリザベート。

 ここでマリーは数本のブラシを取り出した。


 「皆様の分もございます。よろしければお使いください!」


 ええ〜?!


 最初から皆の分も用意していたのか〜!!

 どういう人なのだこの王妃は?


 「皆様、歯をお大事に。磨き方も大切ですのでお教えします」


 言いながらクロティルドにブラシを渡すマリー。

 彼女が素直に受け取ったのでその流れで他の者も受け取る羽目になった。


 「はい、行き渡りましたね。それでは早速磨きに行きましょう。さあ、こちらへ」


 歩き始める王妃に王とその妹二人が続き、他の者もぞろぞろと列を成して歩く事になった。

 店の入り口で待ち構えていた野次馬達はブラシを持った王族八人の行進と後に続く護衛達の姿を目撃する事になった。

 

 なぜブラシ…………?



 この後歯磨きの習慣は王室に行き渡り、以前からマリーが平民に伝えていた事も有り、程なくパリ全域に広まっていくのだった。



 



 食後の歯磨きは大事です?

 これだけでも随分歴史が変わっているのかな?

 そのうち入れ歯も登場したりして。

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