第百七十五話 義妹達
「王妃様!」
エリザベートが立ち上がってマリーに叫んだ。
「その本……」
「いけませんよ、貴女にはまだ早いです」
「え……? あの、本当にあんなに早く読んだの?」
「ああ、そっち? はいそうです」
「そんな……魔法みたい」
マリーも立ち上がった。
ずずんっ
「魔法ではなくひたすら訓練です!」
「…………訓練?」
「そう。それ用の訓練をすれば誰でもできます」
「ほ、本当?」
「はい。私も五年がかりで身に付けました。これは速読術という訓練によって身に付く技術! なのです」
「技術?」
「そう。技術はとても大切な物です。国の宝にもなります。学術に負けない位に。実は今国王様にも教えていますの」
「えっ?」
思わずプロヴァンス伯が声を上げた。
王がカツレツを飲み込むと照れくさそうに笑った。
「まあ、ちょくちょく教えてもらってるだけだがね。物になるかどうかは分からんよ」
「まあ、大丈夫ですわ。あなたは錠前作りの様な技術系は得意ですから。そのうち効果が現れます」
「そうかな?」
二人のやり取りを羨ましそうに見るエリザベート。
そして恨めしそうに見るプロヴァンス伯。
(兄が自分より本を遥かに早く読める様になると? 今まで作ってきたキャラが……)
さっきから王妃が本を高速で読む事に無頓着だったのはこれか。
教えてもらう程良く分かってる事だから今更気にする必要もなかった訳だ。
エリザベートが目を潤ませてマリーにせがむ。
「王妃様、私も習いたいです!」
「ええ、いいですよ」
「本当? ありがとうございます!」
(妹まで……)
「プロヴァンス伯様……」
「い、いや私は別に。遠慮します」
さすがに自分が教えて貰うのは抵抗がある。
「いえ、本をお返しします」
「え? ああ……ありがとうございます……」
赤面して本を受け取った。
なんだかすごく恥ずかしい。
「お姉さまもどう?」
エリザベートの呼びかけにクロティルドは控えめに笑みを作って答えた。
「いえ……私はいいわ」
「そう……」
ちょっとがっかりした顔になるエリザベート。
二人のやり取りを見てマリーは思いを巡らす。
クロティルドがやんわりと遠慮したのは良く分かる。
自分がそうであった様に彼女も嫁がねばならない時期なのだ。
おそらくは今年中に。
これでは時間がなさすぎる。
それなら残された時間で何ができるのだろうか?
「クロティルドさん」
「あ、はい……」
義理の妹ですが、考えてみれば両親いないんですね。
どんな生活していたのでしょうか。
そこまで手を付けるつもりは無いですが。
エリザベートは史実では国王夫妻と運命共にしてますのでこっちでは恵まれた人生になってほしいです。