第百七十四話 頬を染める
「マリー王妃」
「はい?」
マリーがスプーンを持つ手を止めた。
「あなたはとても向学心が高く読書量も多いと聞き及んでますが?」
「そんな事はありませんけれど。程々ですわ」
「いや、それで本を読む速さが尋常でないと」
「? 、何のお話で」
「いえ、議会でそれをお見せになったと」
「ああ、国務会議ですか」
「はい、それです」
少し食いついてきたか。
「できればお見せいただきたいと。こんな場でなんですが」
言いながら本を取り出した。
本に目をやりマリーは答えた。
「かまいませんですよ」
「そうですか、ありがとうございます。では兄上、失礼」
「あなた、ちょっと失礼します」
王を挟んで本が手渡された。
しかし王は気にもとめずカツレツを食べ続けている。
(なんと……無頓着にも程がある! どうしようも無い国王だな)
眉を顰めると本を開かんとする王妃に目を移した。
本は小型でそう分厚くない手軽に読めそうなもの。
「では……」
開いた本に視線を固定するとマリーはページをめくり出した。
しゅしゅしゅしゅっ
秒速以上でページがめくられていく。
「えっ?」
聞いていた噂と全く同じ動作が繰り広げられていた。
あまりの速さに一同驚きの顔に豹変する。
カツレツを食べ続ける国王を除いて。
しゅしゅし……
突然ページの真ん中辺りでぴたりと手が止まった。
マリーの頬がほんのり種に染まった。
「これ…………恋愛小説ですね……」
プロヴァンス伯の上半身が凍りつく。
(その通りだ〜!! ……)
「題名からは分かりにくかったのですが……それにしても…………これ表現が過激すぎません〜?」
本で赤面した顔を隠すマリー。
プロヴァンス伯は本が本当に高速で読めていた事と王妃を恥ずかしがらせてしまった事に慌てふためいた。
「す、すみません! 本の選択を間違いました。それ程過激だとは思っていなかったのですがこれは私の思慮不足でした。大変失礼しました!!」
恐縮しまくる弟をやれやれという顔で見やり国王がマリーに声をかける。
「ふぅむ……まあ、弟も悪気でやったんでは無いから大目に見ておくれ」
「は、はい」
夫の優然とした言葉にマリーはやっと本を閉じた。
「それにしてもお前が恋愛小説を持ち出すとは何と酔狂な」
「め、面目ありません……」
王に向けて俯くプロヴァンス伯。
(あ、兄に諭されてしまった〜!)
今まで作ってきたキャラが……
恋愛小説に赤面するマリー。
免疫が無いんでしょうか?
史実におけるマリーアントワネットよりかなり奥手と言う所ですかね。