第百七十三話 食事と会話
レストランはパリにて1765年に出現した。
しかしその形式はまだ確立されておらず、マリーが名前だけ拝借して王宮レストランと命名したのだ。
この王宮レストランが後のパリに急増するレストランに影響を与えるかもしれない。
「では今日この時に感謝を込めて食します」
マリーは祈るように両手を組んだ。
愛らしい瞳が見開かれる。
真向かいでエリザベートがぽかんとした顔でマリーの様子を見ていた。
「どうしたの?」
「ああこれは美味しい料理を食べられるのに感謝してるの」
にこりと微笑む。
思わずエリザベートが手を組もうとしたら。
「あ、真似しなくていいのよ。私のやり方だから」
「……」
手を引っ込めるエリザベート。
そうだった。
周りの、姉以外の人は王妃に近づくなとずっと自分に言いふくめていた。
何故か分からないけど。
たまに会った時は彼女は王太子妃の頃からとても優しかった。
何より笑顔が明るかった。
メニューを選ぶ時もつい王妃に釣られてパルマンティエを注文した程だ。
この人とこれからも距離を置かないといけないのだろうか……
二人のやり取りをプロヴァンス伯が注目していた。
興味の対象はマリーだった。
元々彼は国王にはなれない立場だと分かってるので別のステータスを築こうとしていた。
のんびりしたイメージの兄に対して自分は理知的な人間だとキャラ作りをし続けてきたのだ。
学術に勤しみ書物を読み耽り知性に溢れたイメージ作りをしてきた。
無条件に与えられた王の位に対抗する価値を磨いてきたのだった。
しかしその王の妻として嫁いできた彼女は……
背筋をぴんと伸ばし極めて良い姿勢で立ち振る舞う。
一見とても理知的な人で兄とはかなり違う。
中身も賢明だと感じさせる女性なのだ。
なのに……
(王妃の噂はそれと真逆だ?)
王女時代から突拍子の無い噂の多い人だった。
とても信じられない武勇伝ばかりなので真に受けてないが噂が起こる原因はなんなのだろう?
その上王妃になってからは政治に口出しし、あろう事か糞の王女とまで言われている。
なのに本人は気にした様子もなく相変わらず気品に満ちたたたずまいを見せている。
(この神経が分からん!)
今国王は仔牛のカツレツを優然と頬張っている。
そんな王に知性を認めない彼が隣で慎ましやかにパルマンティエを口にする王妃には聡明さを認めざるを得ない。
ただ時々歯を見せて笑うのは今のこの国の風潮には似合わないが。
それと他にも気になる噂が……
プロヴァンス伯は探りを入れてみる事にした。
「マリー王妃」
「はい?」
ルイ十六世の肉親が出てきましたが今まで放ったらかしでした。
あまり出番が無いキャラなのでそれも仕方ないです。
マリーが断頭台で首切られないと国王になれない人もいるのでこの作品では目立つ事はないかと思います。