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第十七話 屠殺場にて


 




 「この私が屠殺場を知らないとでも思っているのですか?」


 いや、普通知らないと思っているでしょう。

 王族と全然住む世界が違うんだから。


 「ぜひ、見学を」


 「何を言ってるんですか!! 屠殺ですよ、と、さ、つ、!」


 「はい」


 「どんな残虐な事をしているのかわかってるのですか!」


 「残虐なのですか?」


 「当たり前です! 縄で縛られた牛が棍棒で頭を打ち砕かれ、剣で喉を叩き切られ、血煙が吹き出し……」


 「カークさん言い過ぎです! マリー様に聞かせてるんですよ!」


 「あ、そうだった。とにかくそう言う所なのです、だからあの様な凄惨なもの見ては駄目です!」


 「私は民の有りのままの姿を見に来たのです。ここで見逃しては王女として民に顔向けできません」


 「なんでそうなるんですか!?」


 街角では彼らの言葉のやり取りと牛の悲鳴と牛をぶっ叩く音と男達の怒号が重なり合って聞こえている。

 そんな事を気にもとめず物静かにしているのは彼らの引いている馬達だけ。

 

 「私は屠殺業者の皆さんの仕事を残虐とは思いません。何故なら私たちは彼らが屠殺し解体してくれた肉を食材として頂いているのですから」


 「むっ……」


 「マ、マリー様すごい……」


 早くもビスケが言い負かされてしまった。

 しかしカークはこの程度でへこたれはしない。


 「それは理屈です。しかし理屈でどうともなるものではないです!実際に見たら理屈など消し飛ぶおぞましい光景を目に焼き付ける事になる! あまりにも刺激が強過ぎるのです!!」


 「カ、カークさんもすごいです」


 今日のビスケは流されやすいみたいだ。

 カークは更にたたみ掛ける。


 「それにこの屠殺の仕事は時々手違いが起こる。殴られ切られる牛が生きたい一心で屠殺業者の手を逃れ、屠殺場から脱出する事もしばしばなのです。そうなれば業者は愚か一般市民すら危険に襲われるのです。いつ起きてもおかしくない……」


 「本当ですね」


 「えっ?」


 んもおおおお〜!!


 屠殺場の扉を破って一頭の牛が飛び出して来た。

 続いて屈強な屠殺業者達が追いかけて来た。


 「何ちゅうタイミングなんだ!!」


 吐き捨てるカークの眼前には道に飛び出た牛を取り囲む四人の男達の姿。

 男達は棍棒が二人、刃物が二人だ。

 牛は額に出血した打ち傷がある。

 牛と男達は睨み合って互いの様子をうかがっている。


 「……」


 マリーは一部始終を凝視していた。

 カークが立ちはだかり視界を遮ろうとした。


 「マリー様、引き返しましょう!牛の始末は現場の業者に任せて」


 「一般市民が巻き込まれたらどうします?」


 「いや、そのような事は……」


 「!」


 マリーの顔色が変わった。

 立ちふさがるカークを素早くすり抜け走り出した。

 慌てて振り返るカークの目にした光景は。

 

 幼児が歩いている。

 牛の存在を気にもかけずに。

 このまま行けば牛と屠殺人の輪に入ってしまう。

 しかも間の悪い事に牛が動き出した。

 これでは屠殺業者が幼児に気を回す余裕があるか分からない。

 

 「マリー様〜!」


 カークがマリーを追い、ビスケが後に続く。


 んもおお〜〜!


 牛が人の囲みを破ろうと突進を始めた。

 ぶつかりそうになった男の一人が牛を避けた。

 その先には幼児が歩いている。

 マリーが牛の側面まで突っ走っていた。

 しかしこのままでは牛より先に幼児にたどり着けない。

 

 

 牛が幼児の間近に接近して来た。


 このままでは……





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