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第百六十九話 キャパシティの外






 「こいつを雇ったのはあたしに思うところがあったからだよ」


 肥料を全部売り切って帰りの道すがらカジェはバルの話を始めた。

 バルは相変わらず無言で馬を引いていた。

 

 「あたしら下掃除人は汚い臭いと人から敬遠される日々を過ごしている。貴族どころかただの平民にまで蔑んだ目で見られるんだよ」


 マリーは無言で聞き入っていた。


 「それでもこれであたしらは稼いでいる。どんなに見下されてもこの仕事で食うに困らない生活してるんだ。これだけは胸張って言える。誇ってもいいさ!」


 「その通りです。あなた方の仕事が無ければ困るのはパリ市民です。誠に感謝この上ありません」


 「そこまで言うのかい、あんたは! ……バルは黒人だからそれだけで見下され生きて来たと思うんだよ。仕事中のあたしら同様ね。気持ちは分かるはずだった。だがそれでもどうしようかは考えたよ。あたしらでも他の人がしていた様に黒人を蔑む事もできるんだからね。だけどそんな時に一国の王妃様が下掃除人のあたしになんの遠慮もなく近付いて仕事を勝手に手伝って……嬉しそうにしてるんだから! こんなのいたら蔑むなんてできないじゃないか! あたしも王妃を見習うしかない」


 「ありがとうございます……」


 マリーはカジェの手を取っていた。

 

 「それが私の望む人の在り方です」


 手を取り合った二人は同時にバルを見た。


 「!」


 バルが大いに狼狽えまくった。

 二人の話は聞いていたが一体どう反応していいか全然分からなかったからだ。


 「あっあっ!」


 「あら、そんな甲高い声でしたか。予想外ですね、うふふふ」


 歩み寄り手を取ろうとするマリーに後退りしようとするバルだがその前に両手を掴まれてしまった。

 

 「バルさん、今後ともよろしく願います」


 「あっあっ〜……」


 「これはシャイなお人でしょうか?」


 「あ……やめて……」


 蚊の鳴く様な声でバルがうめいた。


 「やれやれ、王妃様、こいつは優しくされるのに慣れてないんだよ。特にあんたみたいな美人にはね。ほら、赤面してるだろ」


 「おや、本当。困りました。こういう時はどうしましょう?」


 「おや王妃でも分からない事があるんだね」


 「いえ、夫とは勝手が……」


 「なんの話してるんだい!」


 「ああ〜……」


 バルはその場にへたり込んでしまった。

 

 「あ、大丈夫ですか」


 「全くだらしないねえ。女性に免疫無いのかい」


 バルを気遣うマリーだがバルは動けないでいる。


 「バルさん、私にとっては貴方も大事なフランス国民です」


 「?」


 「あなた方国民の暮らしを良くするため努力しております。まだまだ未熟で至らないですが。私のような王族がいる事も心の隅にでも置いておいて下さい」


 「…………」


 「実はですね。私の教育係の先生も遥か東の国の異なる人種の血を引いた方でした。私がこの世で一番尊敬する人です」


 「…………」


 「マリー様、色々言い過ぎです。バル君頭の中いっぱいいっぱいじゃないですか」


 ビスケの忠告にマリーは苦笑した。

 確かに惚けた顔になってる。


 「また喋りすぎてしまいました。まあ気にせずに。カジェさんは良い方ですのでしっかり働けば間違いありません!」


 そう言ってバルの肩を叩くとマリーは立ち上がった。

 

 「もうそろそろですね」


 行きに役人に受け渡し状を交付してもらった場所が見えていた。

 

 「それではカジェさんバルさん、本日はありがとうございました。ここで私達は失礼します。

 

 「おやそうかい。急だね……」


 「はい。バジーさんが風呂を用意して待ってますので。ではまたお会いいたしましょう」


 「あ〜、やっと風呂ですね! 早く入りた〜い!」

 

 風呂という単語に早速食らいつくビスケ。


 「はいはい。それでは……」


 カジェとバルに向けて三人は丁寧に挨拶をしてその場を立ち去っていく。


 「ほら、あんたも立って!」


 へたっているバルを引き上げてマリー達に手を振るカジェ。

 バルはまだ手を振る気力も無い。


 「ああ〜……これは小僧には王妃様は強烈すぎたかね?」





 

 当時のフランスにも黒人はいたそうです。

 幼い黒人は貴族に愛玩されたとも。

 いるんだったら書いておこうと思ったのですが……

 近頃ポリコレとかいうのがあるそうで、それと関係ない描写にしようとしました。

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