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第百六十八話 肥料売買






 「さて次ですね」


 マリーがよく聞こえる独り言をいった。

 そう、この次が全く新しい仕事だった。

 マリー達は郊外へ向かって移動を始めた。


 郊外に続く道には集まった下掃除人たちを役人達が待ち構えている。

 糞尿の量などを確認の上受け渡し状を作成するのだ。

 これが無いと三月いっぱい無料で農民に肥料を渡せないし、業者も助成金がもらえない。

 そして下掃除人の中には糞尿の回収後、続けて農民に肥料を渡す仕事をもやろうとする者が多かった。

 労働量は多くなるがその分儲かる事が分かっているからだ。

 

 「お勤めご苦労様です」


 所定の場所にたどり着いたマリーは役人達に挨拶をした。

 

 「んっ……え? マリー王妃様?!」


 「いえ、それはいいからお仕事を進めましょう」


 カジェの樽を見やり手続きを促すマリー。

 当惑気味に役人は作業を始めた。

 

 


 

 「さて、こっからは馬で引くよ」


 樽を数個乗せた台車を見ながらカジェが声を張り上げた。

 それに応える様に馬を一頭引いた男が近付いてきた。


 「農村まで距離があるからね。こいつはバルだよ」


 無言で馬と台車を繋いでる男をカジェが紹介した。

 マリーがバルに近付くとにこやかに挨拶をした。

 

 「初めまして、バルさん。私はマリー。こちらの二人はカークとビスケです。カジェさんのご紹介でお仕事を見させて頂きます。今回はよろしくお願いします」


 彼女の丁寧な挨拶に男はかなり大袈裟に当惑した。

 もしかしたら生まれて初めての経験だったのかもしれない。

 

 彼は黒人だった。

 まだ十代後半くらいだろうか。


 「では参りましょう」


 バルの当惑を気にも止めずマリー達は出発した。





 「バルさんは集めた肥料を農民の皆さんに売る役ですか」


 「ああ、あたしは親方だし自分だけじゃ農村まで糞尿を運ぶのは大変かと思ってね。それでこいつを雇ったんだよ」


 「そうですか。バルさん、初仕事頑張ってください」


 「……」


 ずっと無言のバル。

 明らかに何を話して良いか分からないといった様子だ。

 そんな事も意に返さずマリーは農地への道をにぎやかに進んで行くのだった。






 「なんだあ? あんたマリーアントワネットでないかい?」

 

 農地に到着したマリー達を出迎えた農民らはマリーを覚えていた。

 色々と広報活動をして回ったせいで素性が知れた所もあったのだ。

 

 「お久しぶりです。いよいよ肥料の売り買いを始める事となりましたので、この目で確かめる為立ち会う事にしました」


 「物好きだのう」


 「私が言い出してできた決まり事ですので。だから見たいです〜!」


 「それじゃ始めるかね。バル!」


 言われて台車を農夫の前に動かした。

 樽を見る農夫達。


 「んじゃあ俺はこの樽一つ」


 「俺も」


 受け渡し状を渡すバル。

 受け取りながら農夫が呟く。


 「黒いのが手続きするのかあ? ここじゃ初めて見たぞ」


 一瞬バルの体が強張った。

 これを見てマリーが一歩踏み出した、と同時に。


 「まあ王妃様が糞運んでくるくらいだからそんな大した事でもねえか」


 「そうだな。うちの王妃様無茶苦茶だもんな」


 これを聞いてマリーの歩調はゆったりとしたものに変わった。

 マリーはバルの隣に並び立った。


 「そう、私無茶苦茶なんです。うふふふ。でも皆様の為を思ってやった事なのは分かってもらえますか?」


 「うん? まあな」


 「ならこれからも私達と仲良くやって貰えますでしょうか? お願いします」


 そう言うとマリーはバルの背を人差し指と中指で押した。

 マリーがこうべを垂れると同時にバルもこうべを垂れる形になった。


 「お、おう……王妃様に頼まれちゃな」


 「ありがとうございます〜!」


 そう言うとマリーバルに向き合い笑顔で抱き付いた。


 「??」


 「良かったわ〜」


 もう気が動転してしまったバルはマリーに抱かれるままになり突っ立っているしかなかった。






 肥料の売買、と言ってもまだ特別無料セール期間中ですが。

 これも助成金、つまりばら撒きです。

 どうせばら撒くなら人気取りでなく本当に国民の事を考えてやってもらいたいですね。

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