第百六十二話 犯人との歓談
戻ろうとしているマリーと追いかけて来たカーク達が鉢合わせした。
「マリー様!」
ご無事ですか? と、聞きたかったがそんな状態とはかけ離れていた。
「この方がお話ししたそうですのでちょっと歓談を致します」
「そんな事言ってなかったでしょう! 歓談って石ぶつけてきた犯人ですよね?」
カークの突っ込みを当然のように気にせずマリーは先程説明をしていた場所へ戻って行く。
集まっている住人達が何事かとばかりに待ち構えていた。
「いえ、こういう人達とお話ししたかったんです」
「だから〜!」
マリーは元の場所まで来るとトマスの前に女を差し出した。
「エネ、お前……」
女の名を呼ぶトマス。
「お知り合いでしたか。そうかもとは思いましたが。トマスさんを助けるつもりだったのですか?」
エネは無言でマリーを一瞥した。
その様子にカークがマリーの傍らに進み出た。
「ええい、このお方は……」
「カークさん、早い!」
マリーの一喝にカークが言葉を呑んだ。
もうそんな段階では無いと思うが……
「お知り合いなら話が早い。あなた方のご意見をお聞かせください」
「何が聞きたいってんだ?」
やけくそ気味に聞き返すトマスに預ける様にエネを渡すとマリーはにっこり微笑んだ。
「まず、今あなた方が私にした事については一切罪に問いません。なので安心してご意見を」
「なんだ偉そうに! おめえらが俺たちに一体何をしてくれたってんだ! 俺らは今日一日食ってくのに必死なんだ!」
「そうですか。ではまずエネさんですか。ふ〜む、私と同じ位ですか。おいくつです?」
「…………」
「ああ、お歳を聞くのは失礼でしたか」
「十八だよ!」
「おおそうですか。それではよろしければあなたが石を投げた理由をおっしゃって下さい」
「トマスをあんたがねじ伏せてたからだ! どうやったか知らないが……それで助けようと思って石を投げたんだ!」
「いつから石を投げるようになったのです?」
「えっ……」
「極めて正確に飛んで来ました。随分練習したみたいですね」
「ガキの頃からだ。他に武器なんか無かったからだ!」
「それで暴動に加わっていたのですか?」
「!!」
「トマスさんと一緒に」
マリーはカークと警官のトマスが暴動に参加していたという会話を聞いていたのだ。
「エネは関係ねえ!」
「あたいは女だから役人どもに文句があっても戦う力がなかった。武器もないし。だから石を投げるしかなかったんだよ! ずっと石を投げ続けてたらトマスにも認めてもらえる腕になった。だから助けようとした。それだけだ!」
「良く分かりました。トマスさん、数日牢屋に入った事もあるそうですね。どうしてそこまで反抗をしてきたのですか?」
トマスは不貞腐れながら言い放った。
「ふん、お前らに俺らの気持ちが分かるか! 食うや食わずの毎日の中、役人どもはああしろこうしろと口喧しく言ってくる。やってられるか!」
「……お気持ち察します」
「分かるわけないだろ!」
トマスより先にエネが噛み付いた。
「あんた本当は身分高いんだろ? 手下何人も引き連れて」
食い入る様にエネがマリーを睨む。
反抗する者に寛容なマリー。
これではカーク達も大変です。
毎度の事ですが。
最も大変なのはトマス達も同じかも。