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第十六話 パリの有り様





 「結婚式以来ですね、ここに来るのは」


 「あ、私結婚式のマリー様見ましたよ」


 「そうですか。式の時は街をまるで見て回ることができませんでした。だから私にとってパリは未知の街です」


 ここでマリーが顔を曇らせた。


 「にしても……臭いますね」


 この言葉に二人が反応する。

 バツが悪そうにカークが答えた。


 「面目無いです。これがパリの実態です。私も今はヴェルサイユに住んでいます」

 

 「で、でも文化は世界一と言われてます!演劇や美術や音楽とか……」

 

 なんとか持ち上げようとするビスケだがマリーの表情は明るくならない。


 「いえ、平民の暮らしを見たいのです。普段の暮らしを」


 「そうですか……」


 「という訳で平民の暮らしの分かる場所へ行きましょう」


 現在の位置は西の端だった。

 東西に伸びる通りを東に進む事にした。

 馬から降りて引いて歩く。


 「道の端を、建物の側にお歩きください」


 うなずいたマリーのハイヒールがぬかるんだ泥にめり込んだ。


 「滑らないよう気をつけてください」

 

 「大丈夫です」

 

 マリーは通りの様子を眺めた。

 大きな看板がぶら下がった店が並んでいた。

 風で危なっかしく揺れている。


 「マリー様……」


 カークが傘を差し出した。

 受け取って開いてみた。

 雨傘でも日傘でもないという物。

 片手で馬を引き片手で傘を持つ。

 カークもビスケも傘を刺した。

 道を行く人々の中にも傘をさす者がいた。

 突然店の一軒の2階から何かが投げ落とされた。

 マリー達の前を歩く夫人の傘にそれがぶつかった。

 夫人は大層嫌な顔をしてその場を足早に立ち去った。


 

 落とされたのは恐らくは落とした者の糞便だった。

 


 この様なことはパリでは日常的な事であり、そのための傘なのだ。

 ハイヒールとは元々こういった糞便を踏まない様に考案された物で、そのため男性も履いていた。

 

 「まさに所構わずですね」


 「う……」


 何も言えないカーク、ビスケ。

 と、後方から馬車が来る音が聞こえてきた。

 馬車のわりに速度が早く、かなりやかましい音が近づいてくる。


 どどっどどっ ごとごとごと……


 マリー達を追い抜き様、馬車が泥を跳ね上げた。

 泥はマリーに向かって飛んだ。


 びちゃっ

 

 泥はマリーが真横にした傘に命中した。

 無表情に去り行く馬車を見送る。


 「……もっと場末の場所があるはずですね」


 「は、はい。誠に嘆かわしい……」


 「そこへ行きましょう」


 「えっ?!」


 「そのためにここに来たのですよ」


 二人の部下は沈黙してしまった。

 まるで故郷の恥部を見られる様な気分だ。


 「案内してください」





 マリー達は馬に乗りセーヌ川沿いに移動し東に進む。

 パリの中心辺りまで来て馬を降りた。

 その場所はさっきの通りよりはるかに狭い路地と言うに相応しい道だった。

 馬車が通るのも困難だろう。

 当然縦並びで歩く。

 マリーが真ん中だ。

 腐臭は更に強くなっている。

 道の所々に汚物があるのはもう当たり前。

 しかしこの辺りはそれだけが腐臭の原因ではない何かがありそうだ。

 路地から少し広い道に出た所で異様な音がした。


 ううおおむううおお〜


 「しまった!」


 カークが唸った。

 ビスケも意味を理解した。


 「引き返しましょう!」


 「なぜです?」


 「いいから早く!」


 と言っても路地を引き返すには馬を順番に反転させて、である。

 まごついている内にまた音、いや声が聞こえた。


 「んもおおおううん〜!!」


 「あれは牛!?」


 やっと声の正体に気づいたマリーだが、その声がなんだか悲鳴に近い物に感じられた。

 更にがつんごつんといった音が聞こえ、男達の怒鳴り声もそれに重なった。


 「マリー様、早く!」


 「分かりました!」


 そう言うとマリーは自分を押し返そうとするカークをひょいとくぐり抜けた。

 

 「あ、マリー様、何を」


 「だから分かりました。ここは……」


 人差し指を立ててマリーは言った。


 「屠殺場ですね!」


 


パリがネガティブになってます。

まあそれが当時の現実だったという事ですね。

コメディー要素が入れにくいね。

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