第百五十九話 早速揉める
そして翌朝。
マリー達は準備をしっかり整えてフォーブール・サン・マルセルに足を踏み入れた。
広報の場所は小さな公園だった。
目立たぬ様にマリーは平民の服に身を包み、金髪を帽子で隠し顔に多めに白塗りしていた。
マリーの背後にはカーク達、その背後には私服の警官が四人。
更に十人近い警官らが公園のあちこちに立っている。
四人の役人達が住人達を公園に呼び集める作業を行う。
「皆様おはようございます! 大変お騒がせしております。朝っぱらからお手間を取らせますが是非公園にお集まり願います。お耳寄りなお話をさせて頂きますので……」
「マリー様、おやめ下さい! 人集めは我らが行いますので……」
道端で住人達に向けて声を張り上げるマリーを慌てて役人らが止めに入った。
公園で待ってるはずの人がいつの間にか道端で呼び込みをしているのだからそりゃ慌てるだろう。
カーク達もマリーを追って来ているのだが呼び込みを止めるのは諦めている。
マリーの何たるかを知ってるから声を張り上げる位ならもういいやという感じだった。
「皆の者よく聞いてくれ〜! これより公園にて新たに変わったゴミの出し方を説明する!! 今すぐ公園に集まってくれ〜!」
「おお、さすがやり慣れていらっしゃる。負けてられませんね」
役人の声に触発されてマリーも声のボリュームを上げようとした。
「皆さ〜ん!……」
「うるせえ!!」
上から怒号が降り注いだ。
マリー達が見上げると二回の窓から男が険しい顔で睨み下ろしていた。
脇に女房らしき女が赤ん坊を背負い、その両隣に子供が一人づつ興味深そうに見下ろしている。
マリーは子供達の視線に応えるかの様ににっこり笑って見せた。
「これから公園でお話ししま〜す! 来てね〜」
「やかましい!」
怒号を気にせず子供に向けて手を振るマリー。
「坊や、嬢ちゃんも見に来てね〜。面白いよ〜」
「ふざけるな!! 面白いわけねえだろ?! おめえら役人のやる事は……」
「はい?」
「いつも俺たちを苦しめる!!」
「おお、そうなのですか! 是非ともお話をお聞きしたいです!!」
「何を言ってんだてめ〜!!」
(いかん、話が厄介な方に進んでる!)
怒り心頭の男の声を悠然と受け流すマリーの様子を見てカークは警戒態勢を取る。
いつでも守り通せるよう……ビスケもそれに倣う。
「いろいろ文句がお有りでしたら、まずこちらへいらして下さい」
「何だと〜!」
「公園でお待ちしております。では」
一礼するとマリーは公園に向かって歩み出した。
一方男の周りの住居の窓から何事かと顔を出す住人達の姿が見えた。
呼び込みの効果は抜群の様だ。
「どうやら厄介事は公園に持ち越しの様だな」
「そうですね……」
カークのため息まじりのカークの言葉にビスケも頷いた。
バジーはマリーについて行きつつサン・マルセルの住人達を横目で見ていた。
(こいつらは大人しく役人の言う事を聞いてる類いの輩か? 何かと突っ掛かってくるんじゃないか……?)
そして公園に人が集まり始めた。
狭い公園に百人近い老若男女が雑然と寄り集まっていた。
ざわざわした声が溢れ所々で叫び声も聞こえた。
彼らの出で立ちは平民の中でも貧相な物が多くを占めていた。
そんなまとまりの無い住人達の前、公園のど真ん中にマリーが軽快な歩調でやって来た。
背後にカークら、私服警官らを引き連れて、と言うか追いかけられながら。
マリーが歩を止めると住人達を見渡しながら満面の笑みを振りまいた。
「お集まり頂いて誠にありがとうございます! これより新たなゴミの始末の仕方を説明させて頂きますのでよろしくお願い致します」
一体何が始まるのかと疑問の表情の住人達の中、さっきのマリーとやり合った男が一番前列に立っていた。
女房と子供三人を両脇に並べて。
「こりゃ何だかただじゃ終わらない気配……かな?」
住人達に紛れてユルリックが様子を窺っていた。
気付かれない様一番後方から。
空気が何だか落ち着かない感じなので何もしなくても騒ぎが起きそうだ。
「見てるだけで……いいよね?」
因縁の? サン・マルセルで広報活動。
ここでやるんだから揉めるのは当然。
で、どうするんだろう? マリー……