第百五十七話 サン・マルセル一択
「マリー様、本気ですか!?」
カークが声を上げて問いかける。
フォーブール・サン・マルセルの役所でマリーは広報に関する打ち合わせを行なったのだ。
それはマリー自身が名を伏せてこの区域の平民達に説明すると言うものだった。
「忘れたのですか、四年前のあの事を! ここはパリ一番不穏な地区です!」
「はい」
「いや、はいの一言で済ませないでください!」
マリーを取り巻くカーク達、そして役人達。
随分無茶を言うマリーに対し役人らはあっけに取られるばかりだがカークらは免疫ができてるので反論したのだ。
「前と何も変わりません。このフォーブール・サン・マルセルを皮切りに説明会を行います」
「なんでここが最初なんですか! もっと平穏な場所から始めれば良いでしょうに」
説明会そのものを否定しないのがマリーを知っているカークの論法だった。
「正体を隠すのも頂けません! 知らずに攻撃的な行動を取る者が出たらどうするのです!」
マリーは血相を変えるカークに対し穏やかに答えた。
「民の声を直に聞きたいです。私の大切な民の……」
「ですから街の中心部で行えば!」
中心部で行えばマリーの顔を知っている者も多いだろう。
多少の変装をしてもばれる確率は上がる。
護衛にすればその方が都合が良いのだ。
しかしマリーにすれば……
「予定を変える意思はありません。王妃自らが説明に赴くと知れたら民の対応が変わります。遠慮なき声を聞く為にも素性を隠します。もし知らずに過剰な行動を取る者はマリーアントワネットに手を出したと言う事を差し引いて処置します」
「無茶で〜す!!」
全力で突っ込むカーク。
マリーも譲らない。
「もうすでに明日日曜朝に説明を行うと御触れを出しています。変える気はありません」
「……」
唇を噛むカークをビスケとバジーが見つめていた。
毎度の事ではあるが今日はかなりきつ目だった。
バジーが仕方ないとばかりに口を出した。
「そろそろマーク署長の所に行きましょう」
「あ、はい勿論行きますけど?」
「それでです。署長に頼んで出来るだけ説明会に配置する警官を増やしてもらいましょう。特にマリー様に護衛の警官を沢山つけてもらいましょう」
「えっ、そこまでしてもらうつもりはないのですが……」
「そこまでしてもらいましょう! なっカーク?」
「あっ、ああそうだな」
バジーがカークの耳元で声を潜めて囁いた。
「これくらいで手を打っとけ」
「うむむ……」
ビスケがマリーの手を取った。
「それではマリー様、警察署の方に参りましょう。担当の皆さん、明日はよろしく〜」
「あ、皆様翌朝はよろしくお願いいたしますね」
ビスケに引っ張られながら役人達に挨拶するマリー。
「あ……ははっ!」
半分あっけに取られながらなんとか挨拶をする役人達を後にしてマリー達は役所を後にするのだった。
と言うことでサン・マルセル行き決定です。
しかし行ってどうするのやら。
マリーの思惑は?