第百五十五話 反省のユルリック
「ゴーソンさん、仲良くいたしましょう。もちろん商売敵の一面も有りましょうが持ちつ持たれつの仲にもなれましょう。何より肥料を使うのは農民です。彼らの喜ぶのが一番です。その為にも……」
マリーは手を差し伸べた。
ゴーソンはまだわだかまりが残っている様で手を所在無さげにぶらつかせていた。
「あんた! その娘の手を見てみな。まだ乳が残ってる。そういう娘なんだよ。私らの気持ちも農夫の気持ちも分かる。だから信じてやりなよ」
「う〜む……リックはどちらかが得をすればどちらかが損をするしかないと言っていたが……」
「それも一つの事実です。それでも互いが認め合えたらと思います」
「そうか……」
閉じていた手が開き握手が成立した。
「やった〜!」
ビスケが歓声を上げて拍手をした。
他の者達もそれに倣って拍手をする。
ひとしきり拍手の後ゴーソンはマリーに尋ねた。
「お前は……本当は何者なんだ?」
「私は本当にマリーアントワネットです。どうでもいいけど」
「何だか仲良さそうになってる……」
マリー達は農民達の元に戻り再び広報活動を再開している。
その中にゴーソン達も加わっていた。
「こりゃいかんわ」
失敗を確信したリックことユルリックだが何となく予想できていた。
木陰に隠れつつ彼は仕事を失う危険を感じていた。
「こんな事なら……」
「という事でこのじゃがいもを騙されたと思って畑の片隅にでも植えて頂ければ有難いと存じます。決して損はさせませんので……」
農民達に延々と講釈を続けるマリーをカーク達と一緒に見つめているゴーソン一家。
たまらずカークに問いかけた。
「おい、あれのどこが王妃様だ?」
渋い顔でカークは答えを返した。
「いや……あれが、王妃様なのだ! 我がフランス王国の……」
「…………」
「そして私もお前達もその王妃を冠するフランス王国の国民なのだ」
「う……」
「心してかかれよ。私も苦労している……」
「…………」
ゴーソンはもう何も言えなかった。
「こんな事なら僕の知り合いが牛の糞を肥料にして農夫に分けてるから人由来の肥料が出回ったら困る。肥料の代わりに収穫した麦を分けてもらえなくなる。どうにかしてくれなんて…………目安箱に入れなきゃ良かったな〜」
どうにかされてしまったみたいだ。
「投書する前に命令されてたらどうにかなったかも……いや、ならないか」
彼はモルパにどう報告すれば首を免れるかを考えつつ引き返すことにした。
無事仕事を終え帰宅したマリーは今一度目安箱を開錠し書面を回収した。
自室に戻ると書面を確認し出した。
「こんなに早く役立つとは……」
出発前に読んだ書面にあった牛飼いがゴーソンであると確信したのは彼の女房と会話した時だった。
巡り合わせが半端ない。
「このようにうまく行き過ぎた時こそ油断をせぬ様に。次は……」
マリー表情が引き締まる。
「市民ですね……」
ユルリックは日和見主義しているみたいですが根は良い人のようです。
モルパに使えて果たしてうまくやっていけるのやら。
にしても目安箱有効すぎるわ。