第百五十一話 急ごしらえの悪巧み
「何、次の来訪地が分かったのか?」
「はっ、明日に。モントレイユになります」
ユルリックの報告にモルパはいぶかる。
臨時雇いのはずだった割には仕事が早い。
こんな奴だっけ……まあ使えるならいいか。
「いかがなさいますか?」
「うむ、農民どもと揉めさせるのがいいのだが」
安易に金で買収して動かす訳にはいかない。
農民どもの口は軽いのだから。
金で命令されたなどと白状されては困る。
「王妃は人の糞の肥料を広めようとしている。市民も農民も喜ぶなどと言ってな。そんなに上手くいくものか?」
「そうですねえ、牛飼いなんかは牛の糞を農民に売り渡したりしてましたが……」
「何? それじゃあ……商売敵ではないか! それだっ! 来訪先に牛飼いがいるか確かめよ!」
「……いるでしょう」
「何故分かる?」
「いえ、わたくしそこの出身で今も住んでますから」
道理で情報が速かった訳だ。
農民らにお達しが来た時にこの男の耳にも入ったという訳か。
「よし、牛飼いをけしかけろ! あくまで彼らの立場を尊重しようと思ってそうした風に見せかけて。わしの名を出さずにな」
「分かりました。行ってまいります」
一礼するとユルリックはそそくさと退室していった。
見送るモルパは愉快そうに笑みを浮かべる。
「若蔵なのに役に立つではないか。しばらく使ってやろう」
部屋を出たユルリックは脱力して息を大きく吐くと両手の拳を握った。
「ふう〜……よしっ! これで当分ここで稼げるぞ! 安定した生活ができる〜〜!」
喜びに身震いするが。
「しかし牛飼いのみんなを王妃にけしかけるのか。命令とあらば仕方ないが……にしたってこの僕が〜!?」
引っ掛かるものを感じつつ彼はモントレイユに一旦帰宅する事にした。
翌朝。
早朝ランニングに出たマリーは途中最近増えた作業を行なっていた。
目安箱である。
数日前から使い出した。
いつものように小屋に入ると鍵を取り出し箱の裏側を開けた。
数通の手紙書状。
多いのか少ないのかはまだ分からない。
懐に入れると鍵を閉めランニングを再開する。
読むのは食後のお楽しみとなる。
食後、マリーは自室で書状を読んでいた。
さすがに観衆に読んで見せる訳にはいかないのでこうなった。
一つずつ読んでいくと。
「亭主への愚痴ですか。まだ目安箱というものを理解しておられないですねえ」
ご意見提案ご要望といったものを投函して欲しいのだが。
「こっちは小説ですか。異世界に行って最強魔力で地下迷宮で火龍退治を……無意味にタイトルが長いですね〜。小説家になろうというなら別の所に売り込むべきでは?」
まだまだ前途は多難みたいだ。
「こっちは……あら?」
速読の力でぱっと読むと。
「これは……なんと重要な意見がありましたね……」
こういうのが欲しかった。
マリーは書状を丁寧に折りたたむと机の引き出しに入れ鍵をかけた。
「役立てさせて頂きます」
そしてマリー一行はモントレイユに向かうのだった。
ユルリックがあれよあれよと正規雇用になりかけています。
なんと調子の良い……
果たしてマリーの邪魔を成功させられるのでしょうか?
なんでユルリック目線w