第百四十八話 広報活動
マリーはパリに来ていた。
いつものカーク、ビスケ、バジーに加えて役人らしき男が三人。
雲一つ無い快晴の空、太陽は真上に位置している。
真冬の季節の中、比較的温かい時間帯。
パリ郊外にて広がる麦畑の前でマリー達は農民らを集めて広報活動を行なっていた。
「皆さん、お集まり頂いたのは他でもありません。来月より畑に使う肥料の売り買いのやり方が変わります。人由来の肥料、つまり人糞肥料に関するものです。お得な情報もありますので騙されたと思ってお聞きください」
マリーの言葉を聞いて農民達はぽかんとした顔をしている。
何の話か分からないし第一この人誰だ?
今回はマリーは名を名乗っていなかった。
片田舎でマリーの顔を知らない者も多かったのだ。
しかも今マリーは平民の服を着ていた。
これでは気付けと言うのが無理だろう。
「俺は人の糞の肥料は使った事ないんだが……」
「はい、そこです!」
農民の一人の言葉にマリーは我が意を得たりとばかりに喋り出した。
「お得な情報とはその事です! まず肥溜めを畑に作って頂ければなんと!! 肥料業者から向こう一ヶ月間タダで人由来の肥料を頂けます!」
「おおお!?」
なんか言った内容以上に沸き立つ農民達。
タダという言葉に釣られてないか?
「ただしこの肥料は肥溜めで三週間ほど置いておかねば本当に使える肥料となりません。その為の肥溜めです。畑の広さに合わせて肥溜めをお作りください。もちろん既に作っておられる方はそれをそのまま使って頂けます」
「おおお!」
何だか農民達が乗ってきた。
王妃にこんな才能があったとは。
「いいですか? 来月から一月の間ですよ! その後は今年いっぱい半額でお売り致します。暦をよく見てご準備ください」
「半額?それ 高いんか安いんか」
「安い安ぅ〜い!」
商売人の片鱗さえ見せるマリーに村人たちは群がり出した。
一人の農民がマリーに辿々しく喋りかけた。
「おらは……この畑のもんだが肥溜め作った事ねえんだ」
「おお、それならいくらでもお教えします! そうですね、この畑ならその辺に作ったら……」
言いながら指差した方へ進むマリー。
おっとり刀でついて行く農民らとカーク達。
マリーは図面を取り出しながら説明を開始した。
「ここに穴を掘ってですね……」
講釈をたれるマリーの周りを取り囲みながら聞く農民達。
その背後で待機姿勢を取るカーク達。
役人達はマリーの生き生きと話す有様に呆れ返っている。
「あれは……我々の仕事が無くなってしまうのだが?」
役人の問いにカークが気だるそうに答えた。
「マリー様がやりたいのだから好きにさせてやってくれ。我らは皆護衛役とでも考えればいい。しっかり見張ろうではないか」
農民の一人が持っていたクワを借り穴まで掘り出したマリー。
こうなる事まで考えて平民の装いをしていたのだ。
「こんな活動をパリ全域の農村でやるつもりか……?」
そうなれば何らかのトラブルが起きた時自分らの使命は重要になる。
カークは気を引き締めてかからねば、と思った。
「そう、この穴に壺か何かを入れるか土の周りを固めて……」
マリーの説明は淀み無く続くのだった……
マリーが広報活動を行なってます。
直接民に話しかけるのがマリーの定番ですね。
単に民と話し込むのが好きなだけとも見えますが。
ちょっと通販ネタを入れたのは書いてて気恥ずかしかった……w