第百四十五話 錠前の価値
そして年が明け錠前が完成し、箱の方も出来上がった物が到着した。
王の私室で王、マリー、トーマン、箱を作った職人とで錠前の取り付け作業が行われた。
こうしてマリーの待ち望んだ国民の意見書を投函する箱が完成した。
「皆様、大変ご苦労様でした。私はただ見ているだけで何もできませんでした」
深々と頭を下げるマリーに対し平民二人がうろたえまくった。
「そんな王妃様やめて下さい、俺たちゃあ仕事を依頼されてその通りやっただけで」
王が場を納めにかかる。
「まあ、まず箱の出来を確かめよう。マリー、鍵だ」
差し出された鍵を見てマリーはその完成度を感じ取った。
鍵の端から端まで形状に甘さが見受けられない。
機能重視でお願いすると頼んだのにその結果機能美が際立っている。
「美しい鍵ですね……」
銀色に輝く鍵にひとしきり見惚れた後、マリーは箱に目を移した。
こちらは重々しい金属の箱だった。
赤銅色の直方体で高さ50cm幅40cmくらい。
上面真ん中に書面を入れるスリットが20cmほど空いている。
正面と側面に銀色のアラベスク風の模様が施されていた。
背部に扉とそれを開く為の鍵穴がある。
マリーは鍵穴に鍵を入れた。
がちゃ!
取手を引いて扉を開くと中に手紙らしき物が。
「……」
何か? と手に取り開き見ると。
我が妻の行動力に我、驚嘆す
「これは……」
マリーは驚嘆と書かれた文に驚嘆した。
これは何を意味する物だろうか?
なぜ、今このような文を書面にして箱に入れて置いたのだろうか?
マリーは夫を振り見た。
「これはどう言う意味でしょう?」
「これはこの箱に入る最初の投書だ」
「えっそれは……」
「意見を聞きたいのだろう。だからこの国の人間として書いた。君の行動力の凄まじさに私は驚くのみでどうしたらいいのか……」
「何をおっしゃっておられるのですか?」
「高等法院の再開を止めたのは君の力だ。私は君の力に乗っかっただけだよ」
「……」
「情けない事に私は王でありながら大した事ができない。だからせめて鍵くらい作るしかやれる事が無いと思ったのだよ」
これは……軋みの正体?
国王様が私に引け目を……?
それなら自分が夫に、王に言いたかった事を!
マリーは持っていた鍵を夫の前に出した。
「とても良い鍵です。この鍵があれば……」
鍵を挟んで夫と妻の目が合う。
「人々の暮らしをを変えられましょう」
「?」
言っている意味が分からない、と言った顔を夫がした。
「あなたはただ錠前が好きで自分でお造りになり始めたのでしょうが、錠前とは何の為にあるのです?」
当然の問いかけに押し黙る夫。
「鍵のないドア、金庫、そしてこの手紙を入れる箱。安全ではありません。勝手に出入りされないよう、中身を取られないよう、鍵が必要とされたのです。ならばあなたの作る鍵は人々の安全の為に使えるのです」
「人々の……」
「そう、鍵の持ち主にしか開けられないのが良い鍵です。そんな鍵を作るには技術が要ります。そう、私の大好きな……技術です!」
「技術……?」
妻は技術が好きだったのか?
全然知らなかった。
「鍵の技術が上がれば犯罪が防げます。おいそれと悪党が開けられなくなるのですから。当然治安も良くなります」
ここでマリーは国王同様棒立ちになっているトーマンと箱を作った職人を見た。
「あなた方職人の技術が大事なのです。技術を進歩させれば……」
「……」
「国が豊かになります」
国……話が大きくなってきた。
技術立国なんて言葉がありますが……
技術を重んじるのは大事です。
王様の趣味からそこに話を進めるマリーって……