第百四十一話 倹約の王妃
そして夕食。
マリーは夫と二人で向かい合って食事をしていた。
今ここで言わねばならない事がある。
意を決してマリーは切り出した。
「国王様……ぜひお聞き頂きたい事があります」
「何だね?」
「お昼の会議でも言った事ですが私は贅沢を止め質素に慎ましく生活すると約束しました」
「うん……そう言っていたな」
「実行しないといけませんが……大変おこがましいお願いを国王様に今から致します」
「何だね?」
「今食べているお食事ですが。ご自分が食べる分以外に大量の残り物が出ます。残ると分かっていて作られているのです。この残り物は手付かずの物が多く、貴族の皆様たちに転売されたりしている有様です。これが当たり前になっているのが疑問なのです」
「ほう」
「国王様はどう思われるでしょうか?」
「……先々王の頃からそうであったと言う。だからそう言う習わしなのかなと何となく思っていた」
「そうですか。私は必要な分だけ作れば良いのではと思うのです。料理長と意思疎通を行えば余計に作らなくても大丈夫かと思います」
「ふむ」
「国王様……あなたは今の私の話を聞いてどう思われましたか?」
「そうだね……」
王は少考する仕草を見せた。
「……私もどうかとは考えていた。君はそれをはっきり贅沢だと思っていたのだな。自分が質素に暮らすと言うので食事から改める、となると私の食事にも……」
「出過ぎた事を申し訳ありません!! それでも……」
マリーは食卓に額を擦り付けんばかりに頭を下げた。
「よしなさい。自分が正しいと思うなら」
夫は席を立つと妻に歩み寄り肩に手を置いた。
「君の言う事も理解できる。だが料理の量を減らすと作っている料理人のいく人かを首切りする事になるね」
がばっ!
王の言葉に脊髄反応するかの様にマリーが起き上がった。
「その言葉お待ちしてました!」
肩に置いた手を吹き飛ばされ、驚きながら王は聞いた。
「え、何だね?」
「私に考えがございます!」
「な、何だね?」
「作る食事の量を減らしても王の菜園で栽培している穀物の量は減りません。料理人もそう。ならば王室の食事以外の余った食材は……」
「何だね……?」
「宮殿内にカフェなり何なり食事所を設立しそこで食材と料理人を使えば良いのです! 王室料理と同じ料理を食べられるとなれば客も詰めかけましょう。もちろん適正な価格を付けて」
「何……と」
「繁盛すれば収益も見込めます!」
「そんな事ができるのか……?」
「できます! そもそも食べている分の数倍残るのですから正に売るほどあるのです。しかも国王様は元々食事量がとても多い。育ち盛りだから当然です。それの数倍余るのだから……」
「え、育ち盛り?」
そっちの方が気になった。
そんな見られ方をしていたのか?
「初めて会った時から背丈が伸びて随分大きくなっておられます。それはそうでしょう、あの頃十五歳で四年半経っておりますから。御立派になられて……」
マリーは王を舐める様にして見上げた。
「……何だね?」
「とにかくそう言う事です」
どう言う事だ?
「それで……どうでしょうか? 私の考えは。無理強いはしませんが」
「……」
王は今の自分の食卓を見下ろした。
マリーの倹約策が始まりました。
もっともずっと前から自主的にはやってたんでしょうが。
質素を旨とする王族なんて有りでしょうか?
前例あるのかな、などと考えます。