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第十四話 やっとパリへ



 

 

 馬小屋の裏側、人通りの無い場所にマリー達三人は移動していた。

 壁にはそこら辺の板に三重丸を書いた急ごしらえの的が立てかけられている。

 数メートル離れてビスケがナイフを持って構えている。

 サイズは小型で右手に一本、左手に五本。

 

 「行きます!」


 声と共にナイフが投げられた。


 ひゅっ 


 的に命中する前に次のナイフを右手に持つ動作を取る。

 

 すとっ  ひゅっ


 連続で次々投げられ五本のナイフが的に横一列に突き刺さっていた。

 ビスケは懐から更にナイフを取り出し両手に持った。

 同時に投げると二本が10cm間隔で的に突き刺さった。

 次に数歩右に移動すると左に走りながらナイフを投げた。

 さっき刺さった二本の間にナイフが命中した。

 ビスケはマリーに向くと一礼した。


 「お見事でした!」


 言いながらもかなりテンションの上がった様子のマリー。

 カークも予想以上といった表情を浮かべている。


 「ありがとうございます」


 「あなたが何故これを隠していたのか分かりませんでした。しかし今見て確信しました。これは確かに取って置きにすべきです。衆人に手の内をたやすく見せる訳にはいかないでしょう」


 「いえ、隠すつもりなんて……」


 ビスケはうつむきながら言葉を続けた。


 「飛び道具なら男女は関係無いだろうと思っただけです」

 

 「そう、色々あったのでしょうね。特に聞くつもりはありませんけど……」

 

 「そうですか。でもこれだけは言っておきたいです。十五の時男性との体力差に悩みナイフ投げを始めました。三年後予想外に背が伸びましたが男女差を克服できたとは思ってません。しかしマリー様は素手で剣を振るう男を投げ捨ててしまわれた。あのような事はマリー王女様だからできたのでしょうか?」


 「……いえ、私は師に教わった事をやっているだけです。教わった事を全力で鍛錬すれば誰にでもできます」

 

 マリーの答えを信じられないといった顔で見るビスケ。

 どう見ても彼女は特別な存在としか思えないのに。


 「ちなみに私の師は女性です」


 「えっ?!」


 ビスケはもう何も言えなかった。

 これでは悩んだりできないではないか。


 「ビスケさん……」

 

 マリーはビスケの肩に手を置いた。


 「あなたにナイフ投げを教えた人はいるのですか?」


 「ど、どうしてそれを?!」


 「我流でできるとはとても思えない技能です。どんな方です?」


 「大道芸の……」


 ビスケの目から涙がこぼれ落ちた。


 「……お婆さんでした」


 なんでこんな大事な事を今まで見過ごしていたのだろう。


 「なんだ、あなたの師も女性でしたか。ならこれからも腕を磨き続けなければ。男女の差など気にならない程に」


 「……はい!!」


 今この時、ビスケの呪縛が解けた瞬間だった。


 マリーはビスケに置いた手を離すと後ろに振り返った。


 「ところで……バジーさん!」


 「ひぇっ」


 物陰に隠れていたバジーが飛び出した。


 「のぞき見ですか。いけませんね」


 「いや、すいません。見るなと言われりゃ見たくなっちまうもんで」


 「まあこの場所をお勧めしてくれたのはあなたですしね。大目に見ます。ビスケさんのとっておきです。言いふらさないように」


 「へいっ!もちろん」


「それでは馬小屋に戻りますよ、みなさん」


「はっ」 「はいっ」 「へいっ」





 三頭の馬の前に立つマリー、カーク、ビスケ。


 「それでは、これからパリに参ります」


 「やっと……ですな」


 実感だった。


 「本来ならとっくにパリに着いてる予定でしたが……私が力試しとか言い出したもので」


 「それもこれも準備を万端整えるのに必要だったのでしょう。お互いを知るのにも」


 「そうですな……」


 とは言ってもビスケと自分はともかく我が主については皆目見当ついてない。

 こちらから聞く訳にもいかないが。

 

 「それでは馬を出しやすぜ」


 バジーがそう言って作業にかかろうとした時、


 「あ、お待ちください」


 「カークさん、まだ何か?」


 怪訝そうなマリーにカークが頭を掻いた。


 「その、靴に仕込んだ鉄板があると歩きにくくて。それに段々足が痛くなったきました。このまま乗馬する訳にはいきませんので抜き取らせていただきます」


 「あら、なんと。失敗作でしたか。改良の余地ありですね。ビスケさん、パリではカークさんが何か粗相を起こしたら遠慮なく足を踏んづけてよろしいですよ」


 「あ、は、はい! 一生懸命踏み続けます」


 「よろしい、 うふふふ」


 「では、今度こそ馬を出しや〜す!」




 白、茶、黒、三頭の馬がそれぞれの騎手を乗せて馬小屋を出て来る。

 石畳の大通り、遥か向こうにパリの街が小さく見える。

 三頭の真ん中、白馬に乗ったマリーが声を響かせた。


 「ビスケさん、カークさん、それでは参りましょう!」


 「はっ!」「はいっ!」


 三頭の馬が一斉に横並びに走り出した。


 見送るバジーが一言呟いた。


 「まるで遠征に行くみたいだぜ……」





 やっとパリへ行きます。

 お膳立てが長かった〜。

 マリーにももう少し暴れて欲しいのですがどうなるやら。

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