第百三十八話 予算
「それでは次の議題に移ります」
モプーが議題内容を読み上げる。
「パリにおけるゴミ等の新たな回収政策であります。発案者は王妃であらせられるマリーアントワネット様です」
「では、発案者として」
そう言うとマリーは起立した。
「まず、言っておきたいのは今パリを悩ます汚物、悪臭ですがこれは一掃できます」
反応は乏しい。
主たる議題は片付いてしまった感が大きいのだろう。
好きにしてよ、と言う事か。
言われなくともマリーはそうするつもりだったが。
「今回は工事の類は行いません。あくまで制度を定める、改変するにとどめます。予算を抑えます。具体的方法としては……」
マリーはゴミ会議の時にまとめた施策を発表する事になった。
ゴミと糞尿を分別し回収し糞尿は農村に直接販売、そして当面は買取の際農民に助成金を支給する。
その為の業者を既存のゴミ、糞尿処理業者を元に立ち上げる。
実現には農民や平民、貴族の意識を変えねばならないだろう。
三年がかりで目処をつけるつもりだと。
「と言う事で皆様の協力をお願いします」
会議場内は無言になっていた。
興味の対象外という事に変化はない。
しかしマリーは意に返さない。
「まず各農村に作られる肥溜めですがこれは作り方の指導だけで農民の皆様には自分で作成して頂きます。使用して初めて助成金が発生する形となります」
何の話を王妃がしてるんだ?
肥溜めが金がかかるかどうかを大真面目に言ってるぞ。
変な意味で皆の注目度がやや上がった。
「一番金がかかるのが助成金でしょう。ですが農民に周知し終わるまでは持ち出しは待たねばいけません。これは下掃除人の仕事の改変も同じ。そして何より市民一人一人のゴミの出し方にも指導が必要なのでまさに地道な努力が必要です。それらの指導は当然役人が受け持つのですが……もちろん私も指導を担当させて頂きます!」
……もちろん?
何で王妃が担当を……もちろんなの?
誰もが疑問に思うのはもちろんの事だろう。
国王もマリーの言葉に反応した。
どちらかと言うとヴェルサイユからあまり外に出たがらない王だけにマリーがパリに外出して何をやっているかをよく知らなかった。
特にマリー自身に何をしていたか聞くでもないし世間の噂にも無頓着だった。
知っていると言えば国王の日常を観衆に公開する際マリーが同席してる時だった。
マリーが観衆と井戸端会議してるのが耳に入る訳だが自分から会話に加わる事はなかった。
意外と国王ルイ十六世はマリーアントワネットの何たるかを分かっていないのかも知れない。
「とにかく執行前の周知を徹底させたいと存じます。試算で出た予算は……」
やっと緊張感が出てきた。
金が絡む話だけに。
「二百万リーブルと算出されました」
二百万リーブル!!
やっとマリー自身の出した議題が始まりました。
悲願ですので実現しないと、ですが。
予算を通すってのは今の国会でもよく聞く言葉ですね。
果たして通るのやら。