第百三十七話 会議と会議の間
「よく決意して下さりましたね。感謝この上ありません」
「いや、君のおかげだ。決断するには会議室の空気が圧力になって毎回大変なものだった。しかし今回はその空気がくすぶっているみたいな……そんな感じだったから何とかなった」
「そうですか。私は空気を読めませんでした」
空気を作る側だったと思うのだが。
「以前にも君に自分の意思で決め発言するよう言われたが……あれより毎日毎日会う貴族の多くが高等法院再開を口にしてきた。だから今回は以前より大事であったのだ。良く乗り越えられたと思うよ」
「成長されたのですね」
マリーは嬉しそうに微笑んだ。
「い、いや、そんな大層な物ではない。しかしこうなったら反発も強くなるかもしれないな……」
「あの〜なんの話だべ?」
観衆の一人が声をかけた。
ここは朝と同じ観衆付きの王の食卓であり、王と王妃は昼食を取っていたのだ。
声をかけた観衆は朝にも来ていた暇人だった。
「いえ、これは会議に関わる話なので中身はお教えできません。悪しからず」
「今まで散々喋ってたべな」
「うふふふ、そうですわね。でも肝心な事は言ってませんよ」
そうでもなさそうだったが。
「う〜ん……聞きて〜なあ」
「食事を終えたらまた会議です。歯も磨かねば」
「歯を磨く?」
「はい。食後に。歯を長く使い続けるために」
「??」
「良き習慣です。ブラシと少量の水があれば」
観衆の中の貴族が出て来て問うた。
「王家の習慣で? ぜひ見習いたいと存じます!」
「おお、それでは後で磨いて見せます!」
「えっ?それは……」
「気にしません。おかげで綺麗な歯ですから」
にっと笑って見せた。
「はあ……」
歯は隠すのが常識なのに……綺麗だから平気って……
まさに奔放。
暴れん坊と呼ばれる訳だ。
そうこうしてる内に王は食事を済ませた。
次の会議に備えないと。
マリーはというとブラシを持って来て歯の磨き方を説明し出した。
「歯の手入れなので歯茎に当たらない様に。上の歯は上から下、下の歯は下から上」
臆面もなく歯を見せる王妃を王は漫然と見ていた。
その王に観衆の一人が声をかけた。
「王様は磨かないのですか?」
「あ、えっ?」
観衆のいく人かは王を怪訝そうに見ていた。
歯磨きがマリーだけの習慣と知らず王族全体のものと思い込んでいたからだ。
王はちょっと狼狽えて見せた。
「あ、そうだね……私も……やるか」
王の漏らした一言をマリーは聞き逃さなかった。
「ぜひやりましょう!!」
後に歯磨きの習慣は王族の日課として次第に広がっていく事になる。
休憩が終わってもモルパは戻って来なかった。
過労の為、らしかった。
会議室に戻った貴族達の何割かがテンションが落ち込んでいる風に見えた。
最初の議題で落胆したのに次の議題に出向かねばならない種類の人達だ。
彼らにとってこの先はどうだっていいのだろう……
取り敢えず一山越えました。
後は大丈夫かな?
マリーの念願でもありますしやるしかないでしょね。