第百三十五話 笑わずにいられない
「うふふふふふ……」
ぎょっ
「ふふふ……」
モルパはその異様な笑い声に背筋に寒気が走った。
俯いたままマリーが笑い声を漏らしている。
(何がどうした…………?)
訝るモルパ。
そして会議場の皆も当惑を隠せない。
マリー側のテュルゴーもこの笑いの意味は分からない。
そして傍に座する国王は……
「だ、大丈夫か? ……どうした」
席を立とうとすると。
ぶぁっ!
俯いた顔を勢いよく上げると両の眼を大きく見開き、同じく大きく開いた口元に遠慮なく笑みを浮かべるマリー!
「よくぞ言ってくれました!! その通りです! 私は王妃として随分贅沢をして参りました! 民が日々の生活に苦労しているのに。モルパ様のご指摘通りです!! 」
えええ〜?!
何が言いたいんだ?
「私は王太子妃の頃から贅沢は控える様にしておりましたが、それでも平民と比べればとてつも無く贅沢をしているのでは無いかという思いがありました。ありがとうモルパ様! あなたのおかげで目が覚めました! 今後は王妃として今より質素な暮らしに徹する事に致します!」
言いながらマリーはモルパに疾風の如く駆け寄り手を取った。
モルパは拒否する間も無くマリーと握手をしていた。
「な、な、な、何ですか〜?!」
何をさせられてるのか理解できない。
「これからはモルパ様の言う通り倹約を宗として日々の暮らしを慎ましやかに過ごします!」
「え〜〜??」
そんな事言った覚えは無いのに〜!
「まず王妃である私が手本を示さねばならなかったのですね! モルパ様、感謝この上ありません」
『あああ……」
何だか分からない事になって来た〜!
王はモルパの手を取る妻を見てただただ茫然としていた。
いつモルパと和解したのだ?
いや、和解と言うのか?
贅沢を止めるとはどう言うことだろうか。
「お、お、お、王妃様!」
マリーに持たれた手を支点に揺さぶられているモルパが声を絞り出した。
「はい!」
「で、ですから私は……」
「はい!」
「とにかくお手をお離し下さい!」
「は? はい」
やっと手が離れた。
モルパは荒れた息を整えようとした。
自分から動いてないのに何で息が荒れなきゃいけないのか。
「ふう〜……』
「大丈夫ですかモルパ様?」
(誰のせいだ!!)
モルパは一息つくと……
(ええと、何だっけ?)
「高等法院……」
「それだ! って何で王妃様が!」
「つい気が高ぶってまた忘れてしまいました。申し訳ありません! だけどこれとそれとは話が別です!」
どれとそれなんだ?
とにかく話を軌道修正せねば!
「そう、高等法院の必要性はもう十分話したはずですぞ!この上は国王の御意見を……」
だいぶ予定より横道それたがまとめに入る事にしよう。
結局は数の論理で王を丸め込めるはずだ。
基本貴族であるなら高等法院再開は自らに利する場合が多いのだ。
モルパは王に振り向いた。
「国王様様、御意見をぜひ……」
国王は即答した。
「二人とも何をやっているんだ?」
王様の突っ込みが入りました。
まあそれはそうか。
それにしても質素倹約を旨とする王室なんて当時あったでしょうか?
贅沢しない方がむしろ大変な作業かもしれないですね。