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第十三話 勝ち負けより気になる






 「では、はじめてください」


 マリーの声が響いた。

 カークとビスケは対峙してそれぞれの武器を構えた。

 カークは戦時用の大金槌の代わりに大木槌を。

 ビスケは諸刃の剣に皮の覆いを被せて切れないようにしてある。

 ルールは一応寸止めとされた。

 二人の身に付けているものは鎧などではなく普通の衣装だった。

 ただビスケは男装に近い身なりにしている。


 たっ!


 ビスケが素早く間をつめて横殴りに剣を振る。

 足を切り付けんとする直前に木槌が下がり受け止めた。

 木槌が軽々と剣を跳ね上げる。

 跳ね上った剣が間を置かずに腹を突こうとした。

 カークは手首の力だけで木槌を振って剣を払いのけた。

 

 (パワーが違い過ぎる!相手が動こうとしない)


 後退するビスケ。

 カークは攻撃を受け止め反撃する戦法だ。

 動かないが反応は早い。

 

 (速さで何とかしようと思ってたけど……全然無理!)


 ビスケが並の男ぐらいなのに対してカークは2m近い大男なのだ。

 男女の体力差に悩まされ続けたビスケだ。

 予想外に背が伸びた今でも克服したと実感した訳では無い。

 

 (だめなのか……やはり……せっかくマリー様に取り立ててもらったのに!マリー様……マリー様?)


 ビスケは昨日の騒動を思い出した。

 カーク程ではないが自分よりずっと大きい男を素手で投げ落としてしまった少女のことを。

 あまりの事に自分に当てはめる事すら思い付かなかった。

 

(マリー様の見ている前で諦めたくない!私もマリー様のように……戦う!)

 

 ビスケは再び前進した。

 カークに届くギリギリの間合いで剣を伸ばし突きに出た。

 木槌を持つカークの手首を剣の切っ先が迫る。

 カークは木槌を動かし受け止めた。

 彼の右足が半歩前に出た。


 (今だ!)

 

 素早く剣を持ち直す。

 身を屈めるとカークの足の甲に剣を突き刺立てんとした。

 最早寸止めどころでは無い。

 全速力で剣を突き下ろした。


 がつんっ


 剣が靴に命中する音が響き渡った。


 「そこまで!」


 マリーの声が響き渡る。


 「二人とも良くやりました」


 万雷の拍手と歓声が鳴り響いた。

 当然の事だが馬小屋の全員がこの試合を熱視していたのだ。


 「この試合、勝者は……」


 ビスケとカークが揃ってマリーを振り見た。

 他の者達もマリーに視線を集める。


 「……あ、力試しだから勝ち負けいらないわ」


 ええええ?!

 なんで??

 どよめく観衆を気にも止めずマリーは二人に歩を進めた。


 「お二人の力、しっかりと試させて頂きました。素晴らしかったです」


 「はっありがとうございます」「ありがとうございます」


 「ビスケさん、どうでしたか」


 「はい、まずカークさんに寸止め出来なかった事をお詫びします」


 「いや、気にしてない。止められない程全力だったのだろう」


 「ありがとうございます。それで戦った時の心境ですが、とても太刀打ちできないと思いましたけどマリー様の事を考えたら諦めたり出来ませんでした」

 

 「そうですか、私のためにありがとう。カークさん、あなたは?」


 「はい、私も同じです。マリー様の事を、そう、ビスケと同じく昨日のマリー様の事を考えていました」


 「ああ、やっぱり」

 

 「え?どういう意味ですか」


 「昨日のマリー様がヒールで敵の足を貫く姿があまりに強烈で。あの後対策を自分なりに考えました。それで試しに足の甲を守る鉄板を靴に仕込んでみたのです」


 「ビスケさんが剣で靴を突き刺した時、すごい硬い音しましたものね」


 「要は二人ともマリー様に学んだという事です。こんな物を仕込んでおいて力試しを提案するのも気が引けましたが……」


 「そんな……」


 ビスケは二人の会話に色を失ってしまった。

 それでは完敗だったという訳だ。


 「ビスケさん!」


 「は、はい!」


 「勝ち負けではありませんよ。力を試しているのです。私とこれから共に行動するあなた達を知るために」


 「……分かりました」


 「それでもまだ知り足りない」

 

 「え?」


 「カークさん、気付いてますか?」


 「はっ何でしょうか?」


 「ビスケさんの上着です」


 「ああ……何となく」


 マリーはビスケを鋭い眼で見上げた。


 「よろしければ上着を脱いでいただけますか?」


 もう驚嘆するしかない。

 十四歳の少女に見抜かれていたとは。

 

 「分かりました……」


 ビスケは特に嫌がる様子もなく上着を脱ぎ始めた。

 脱ぎ終わると上着から手を離した。



 どさっ!


 重々しい音と共に上着は地面に落ちた。


 「すごい荷物ですね」


 マリーは無感動に上着を見つめていた。


 「中身は……武器ですか?」


 「はい」


 言いながら上着を拾い、内側を開いてマリーに見せた。

 そこにあったのは。


 「ナイフ!しかもこんなに沢山!」


 そこには左右にポケットが有り、その両方にナイフの束が詰まっていた。


 「パリまでお供すると決まった時、いざという時の為に準備しました」


 「道理でカークさんと試合った時、上着がゆさゆさ揺れた訳ですね。詰め込みすぎでは?」


 「いえ、慣れてますから。常に持ち歩く様にしてます」


 「? でも昨日はゆさゆさとは……」


 「今日ほどではないですけど何本かは持っていたのです」


 マリーは少し考える仕草をして見せた。


 「ちょっと外の空気を吸おうかしら」


 



 足刺したら鉄板入れてたってなんか都合良すぎと自分でも思ってしまいました。

 そんな事も感じつつ、書き続けてます。

 

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