第百二十三話 炎の鞭
カークは木槌で叩いた後、力の弱まったケルを地に叩き伏せた。
完全沈黙を確認するとボスを見た。
見ると黒仮面が松明をムチにくっ付けようとしていた。
ぼっ!
鞭の先から真ん中あたりまでが火に包まれる。
「何と!」
驚く間も無く鞭が振られた。
びしっ!!
「よくもよくもよくも〜!!」
カークはマリーを見た。
(まだ体に油が残っているはずだ!)
ビスケも事態の深刻さを承知していた。
前の二人の間を縫ってナイフを連投した。
しゅっしゅっ
ナイフがラースの鞭を持つ方の肩と網タイツに命中した。
ごつっかきんっ
硬い音と共にナイフが地に落ちた。
当惑するビスケ。
濡れたローブとは訳が違う。
ビスケはラースの網タイツに違和感を覚えた。
「あれは……網タイツじゃなくて鎖かたびら?!」
だとしたらドレスの下にも鎖かたびらを着込んでいるのか。
ナイフに呼応してラースは胸元から石仮面を取り出し顔に被ってしまった。
これではナイフはラースには効果は見込めない。
カークは一歩踏み出しマリーの前に立った。
「マリー様、前には出ないで下さい」
マリーは無言で立っている。
自分に油がまだ付いているのは自覚しているから迂闊に動けないのだ。
しかしこのままでは……
「あっ」
声を漏らすが早いかマリーは後方のドアへ走った。
「ビスケさんカークさんに力添えを!」
言いながらドアの向こうに消えた。
カークはラースの炎の鞭を木槌で受けようとしていた。
好手とは言えないかもしれないがそれしかない。
対峙するラースの側にいる黒仮面が腰の瓶を掴んだ。
炎を吹くより瓶の油をぶっかけて火を付けた方が有効なのは学習済みだ。
瓶の蓋を取ろうとした瞬間に、
しゅっしゅっしゅっしゅっ
ビスケがなりふり構わずナイフを黒仮面の手を狙って連投した。
ナイフの一本が手に命中した。
「うっ」
手から瓶が落ちた。
がしゃっ
瓶が砕け油が床にこぼれた。
油の上に血が滴り落ちた。
ラースは黒仮面の様子を気にもせず鞭を降り下ろした。
びゅん!
炎の鞭がカークの木槌をくぐり抜け肩口に当たった。
びしっ
「ぐっ!」
くぐもった声をカークが漏らす。
鞭打の痛みが体に響く。
火が燃え移ったのを見てカークは急いで肩を壁に擦り付けて消した。
炎だけでなく到達距離が長いのが厄介だ。
鞭の長さは三メートルはあるだろうか。
それをこの狭い通路で難なく使いこなしている。
ビスケも追い込まれていた。
もうナイフがない。
どう戦えばいいのだろうか。
びしっ
またもやカークに鞭が入った。
今度は脇に当たり火が燃え移った。
痛みを堪えつつ片手で木槌を持ち、残る手で揉み消した。
最早猶予は無い。
後退して部屋に誘う手を考えたがそれではまた主を巻き込む事になる。
鞭を気にせず突進するしか無いと判断した。
「ええい!」
ラースに向かってカークは走り出した。
ボスとの直接対決です。
地下迷宮編そろそろ大詰めです。
端折ろうか引き伸ばそうかw