第百二十二話 犬退治
幼女の眼前で大きく口を開いた山犬が片耳を掴まれ方向を逸らせた。
そらせた山犬の口に手刀が突っ込まれる。
山犬は地に伏し一人の女性が組み付いていた。
彼女は嗚咽する山犬の耳に口元を近づける。
「 わ っ !! 」
ぎゃい〜ん!!
女性は手を振り上げると悶絶する山犬の耳の穴に掌底を打ち付けた。
ぱしん!!
弾ける様な音がすると山犬は吠える間も無く卒倒してしまった。
幼女が呆然と凝視する中彼女は山犬の口から手を抜き、すっくと立ち上がった。
幼女に振り向きにっこり笑う。
「もう大丈夫ですよ……」
マリーは喉に手刀を突っ込んだままの状態で悶絶するベロの耳の穴に親指を押し付けた。
腹に力を入れる。
腹部内で力の移動が行われ、その力が肩、腕、手、親指へと伝わっていく。
力がベロの耳の奥で弾けた。
ぱしんっ!
弾ける様な音がするとベロは吠える間も無く卒倒してしまった。
女性は倒した山犬の首を掴むと持ち上げた。
幼女に隠す様に背を向け山犬の頭を地面に叩きつけた。
ぐきっ
鈍い音がする。
警戒態勢で女性を凝視している残りの山犬二匹を睨む。
倒した山犬の頭を持つと二匹に突き出し放り捨てた。
どさっ
ふううう〜……
二匹の山犬は女性に気押されて背を向けた。
元来た獣道を引き返していった。
見送った彼女は今一度幼女に振り返った。
今一度にっこり笑って幼女に声をかけた。
「私はヒバリコ。お嬢ちゃんのお名前は?」
ぐきっ
「……はっ」
マリーはやっと我に帰った。
床にベロの頭部を叩き付けていた。
そんな自分の状態に言いようの無いデジャブを感じつつ、周りの様子を見た。
横ではカークがケルとやり合っている最中だった。
前方には三匹目の犬、ルースが警戒態勢を取っている。
ベロを仕留めたマリーに威圧されている様だ。
犬達の後方で女ボスが怒りに歯を喰い縛った。
「おのれ、よくもベロを!! あの女何者だ? 」
傍の黒仮面が答えた。
「マリーアントワネットと言ってました」
「何〜?! 完全にイカれた女だ!容赦の必要もない!!」
ばしっ!!
鞭がうなった!
主の命令に押されてルースが前進した。
「おい!」
「へ、へい」
「あれだよ!」
「へい!」
黒仮面の蛇男は、いやもう蛇は付けてないが、ボスに言われて腰の瓶を取った。
カークはケルの何度目かの跳躍を受けていた。
木槌を振って迎撃する。
互いに木槌と牙を避け決め手を欠いた。
(こうなれば……)
カークは木槌を片手持ちにした。
次の襲撃で決める。
ケルが突進して来た。
今回は木槌を振らずに待ち構える。
ケルが漆黒の巨体で飛び跳ねカークの眼前まで牙を迫らせた。
木槌を持ってない腕で受け止めた。
ケルはカークの頭部の代わりに腕に噛み付いた。
がぶっ
痛みが走るが許容の範囲だ。
冬なので厚着だから皮膚までは届かない。
カークは噛まれた腕を引き、振り回すがケルはここぞとばかりに離そうとしない。
(今だっ1)
残る木槌を持った腕をカークはケルの脳天に振り下ろした!
ばごっ!
ぎゃんっ!
三匹目の大型犬ルースが、
しゅっしゅっ
ビスケのナイフに足元を取られてつんのめって転がった。
四本の足で素早く立ち上がった瞬間ルースの頭に手が置かれていた。
振りあおぐと自分を見下ろす鋭い視線が……
「完全に……乗り越えましたとも」
「がる?」
何、この状況?
犬の頭では、いや人の頭でも理解は難しいだろう。
頭に置かれた手が撫で摩り始めた。
よくご褒美にしてもらう事……だがこいつは敵だ!
気持ち良さを振り払い喰らい付こうとした時、両耳を両手で挟む形で叩かれた。
ばしんっ!
脳が揺れた。
ふらつく間も与えられず首輪につながっていた鎖を口に咬まされ縛られた。
頭を抑えて床に叩き伏せられた。
だんっ
戦意を喪失させるのに充分だった。
ルースは力無くマリーに従順の姿勢を取った。
「これで三匹……」
びしっ!!
マリーの手前で鞭が爆ぜた。
「よくもよくもよくも〜!!」
怒りの形相で鞭を振りかざすラース。
しかもその鞭はめらめらと炎で燃え上がっていた。
かつてマリーと人外が戦った時使った手は過去に師匠の使った手段が原点と判明しました。
一応マリーの幼少期は連載始まった頃から設定してましたがそこまでは考えてなかったw
そして次はラスボスとの対決ですね。