第百十五話 迷宮の奥へ
部屋を出たマリー達は階段への通路を進んでいった。
「お腹空きました〜」
ビスケがぼやく。
さっきの部屋には酒しか無かった。
「満腹なのはツバメコだけですよ〜」
ツバメコはビスケの手の上で寝ている。
「もうすぐ階段ですよ、頑張って」
次の角を右に曲がり……そこに階段があるはず。
先頭のカークがランタンで照らす。
「……あっ!」
カークの声に続いて皆が階段を見た。
「これは…………下りの階段ですね」
落胆の表情を浮かべる皆と違いマリーだけは熱い視線で階段を見下ろしていた。
壁に取り付けられたランタンの明かりで照らされた通路を駆ける男。
黒のローブを身にまとい息を切らして目的のドアまで辿り着いた。
ばたんっ
開かれたドアの向こうには薄暗く控えめな照明に浮かぶ人影。
「地上の様子を見てきましたぜ」
「どうだったい?」
人影が椅子から立ち上がった。
黒い革製の衣装を身に纏ったすらりとした背丈。
腰まで伸びた黒い髪。
「それがオルレアン街道が丸ごと陥没してました。ありゃ地下二階まで落ち込んでますぜ! 街道側の階段は使えませんぜ」
「そりゃ随分な事故じゃないか。それでこっちの方の被害はどうなんだい?」
「階段以外は何とか無事です。ただこの陥没で警察やら役人やら対応処理をやっててその上見物人が蟻の様に集まってます」
「こっちの方まで捜索の手が来ないのかえ?」
「上から覗いて見たんですが壁画の部屋に続く通路は瓦礫で塞がってましたぜ」
「なら当分は誰も入って来ないって事だね?」
「……まあ陥没で落っこちた人間もかなりいたそうだから、そんなのが紛れ込む事が無いとは言いませんが」
「ふうん……まあいい。お前達はいつも通りやっておいで」
「へい」
退出する手下を見送ると女は部屋の片隅に歩み寄った。
「もしそんな余所者が紛れ込んでいたらどうしようかねえ……」
ふうう〜……
唸り声が聞こえる。
しかも二重三重に。
じゃらっ
鎖が引っ張られる音。
女は机の上の器から生肉を手で掴み取り唸り声の方に放った。
「ねえ、ケル、ベロ、ルース」
がるるる〜……
「下りるのですか」
「取り敢えず行ってみましょう」
マリーは躊躇せず階段を下り始めた。
「危険です!」
「だからこれです」
マリーはぶどう酒の瓶を取り出した。
さっきの賭博場から拝借した物だ。
階段を下り切ると瓶から一滴酒を垂らした。
床に文字通りぶどう酒色の跡が付いた。
「目印を付けておきます」
「気休めです!」
「そうですね。引き返す事も考えておきます」
カークが眉をひくつかせる。
「マリー様……もしかして迷宮探検を楽しんでませんか?」
「えっ!? そんな事はありませんよ……絶対!」
マリーが少し冷静さを失ったのをカークは見逃さなかった。
(やれやれ……)
ダンジョン下層へ向かいます。
迷宮の盟主とは?
戦いの時は近い。
なんて盛り上げてますが史実準拠です。
信じて!