第百十四話 開けてびっくり
「お前達には悪魔の祟りがあるだろう」
だだだだだっ……
男達は通路の闇に消えて行った。
「ふう〜」
バジーが大きくため息をついた。
「ごめんなさい、バジーさん、本気で言ったのではありませんよ。駆け引きですから」
「分かってますよ……でも逃がしちまった」
「私達が来た道ですから行き止まりですね。でも追う事はできません。枝道がたくさんあるからどこに逃げたやら……」
「では……このまま進むのですか?また暴漢に出会ったらあんな無茶をする気ですか!」
「ああ、銃を出すかも知れない動作をとった者から先に飛び付きました」
「何ですと!?」
「銃対策は当然です。射程距離に収まっていてはいけません。最善の方法は射程距離の内に入る事です。そうなれば素手の戦いです。敵が銃を手放さなければ逆に片手が塞がるので有利です。さっきの相手はもう一丁銃を持っていただけにすぐ銃を手放しましたね」
「そんな事を……」
「両手撃ちできる相手なら状況は変わっていたでしょうね」
「そこまでお考えを……しかしそれで銃を持つ相手に飛び付くなど」
「分かっています。ただ誰も傷付かせるつもりは無かった。その為の最善を尽くすのみです」
「相変わらず意見が合いませんな」
「ええ」
マリーは微笑んだ。
「さて」
マリーは部屋の片隅にあった銃を拾った。
「この部屋の確認をしておきましょう」
銃をバジーに渡す。
「一応武器を。構えるだけで脅しになります」
「……へえ」
「ここは怪しげな信仰者の集会所……ではなく賭博場ですか。賊のいた机の他にダイスの置かれた机もありますね」
「壁にダーツの的もありますよ」
投げたナイフを抜きながらビスケが言った。
「賭博なら地上でできるのに。何か違いがあるのでしょうか? おやこれは……」
壁際に箱があった。
何だか宝箱風な形で幅三十センチ位。
「何だこりゃあ? お宝でも入ってるのか」
バジーが不審そうに近づく。
「バジーさん、どうぞ」
「えっ俺?」
「何となくバジーさんが開くと様になる気がします。お願いします」
「俺は盗賊顔かよ! 何なんだ……」
王妃の頼みだから断れないのは分かってるが……
「さっきあいつら悪魔の祟りとか言ってたよな。まさかこの箱も呪いがかかってたりしないか?」
「考え過ぎでしょう」
だったらあんたが開けりゃいい、とは言えないのが辛い。
「う〜ん、ええい、この!」
やけくそ気味にバジーは箱を勢いよく開けた。
ぱかっ
四人が中を覗き込んだ。
「……!」
中に土が入っており、その表面には……
「きゃっ」
ビスケが悲鳴を上げた。
小さなミミズが二、三匹、蛾の死骸、さらに角砂糖にまとわり付いた蟻の群れ。
「これは……」
「何かの罠のつもりかよ!」
怒るバジーの横をすり抜ける影が。
ちゅぴっ
ツバメコが箱の中に飛び込んだ。
ちゅぴっぴ
クチバシでミミズをついばみ始めた。
「この箱……もしや」
マリーが呟いた。
「燕の餌になる物が入ってる?」
「そうなんですか?!」
さっき悲鳴をあげたビスケが今度は真剣に箱の中を見ていた。
「ミミズ、蛾、蟻、ダンゴムシもいますよ」
「そ、それじゃツバメコってここで飼われてたの?」
「かも知れませんね」
マリーは思案顔で二匹目のミミズをついばむツバメコを睨む。
「この迷宮の盟主の人と成りが分かりません。正に迷宮入りです」
逃げた男達がこの迷宮の盟主って事は無いでしょう。
まだ上にいるはず。
ってマリーもその気になってるし。