第百十二話 飛んで来た!
「この先を右に……」
カークが道を確認していた時、突然前方から!
しゅっ
黒い影が飛んできた!
「うわっ」
影が四人の脇をすり抜けていった。
「きゃっ」
「ひゃっ」
マリー以外の者が声を上げた。
「な、何だ一体!」
「今度こそ迷宮の魔物か?!」
泡食いながらもテンション上げ目のバジー。
マリーに触発されたか。
カークが振り向きランタンで照らそうとした。
しゅんっ
影がUターンしてマリーの頭上に急降下してきた。
「あ!」
声を上げたカークが動く前に影がマリーの眼前に影が迫る!
ぱしっ!
「マリー様!」
「…………」
マリーは両手で黒い影を掴んでいた。
ちゅぴー、ちゅぴー!
迷宮内に響き渡る可愛い声。
「……燕ですね」
「なんと……」
「魔物じゃなかったか……」
マリーの掲げた燕を取り囲んで覗き見る三人。
ビスケが目を丸くして問いかけた。
「なんで燕がいるんです?……可愛い」
「そうですね、えっとバジーさん?」
「あ、採掘場の坑道に燕が入り込んで巣を作る事があるそうで」
「おお、そうなのですか。しかし今は十二月ですよ」
「越冬燕って奴か。いや、それはないか。もしや……迷宮に入って迷い込んで出られなくなったんじゃねえか?」
「そんな、なんて不憫な!」
「ビスケさん、この燕はかなり痩せてます」
「えっ」
ちゅぴ、ちゅぴ……
燕は抗うのを止めて大人しくなった。
力が尽きたとばかりに。
マリーはビスケに問いかけた。
「どうします?」
「可哀想です。外に連れて……」
「外は真冬です」
「そんな!」
「今までよく生き延びてきたものですね。何をしてやれるやら……」
マリーはビスケに燕を差し出した。
「あなたが気になると言うのならあなたにお任せします。してあげられる事をやって下さい」
「……」
「頼みましたよ」
「とにかく……外に出してやろうと思います。せめてもう一度外で存分に空を飛ばしてあげたいです」
ちゅぴっ
「分かりました。いざとなれば燕をバジーさんに預けて戦えば良いでしょう」
「終わりましたか? では先を行きましょう」
カークは言いながら前進を再開した。
(にしても良く飛んで来る燕を手掴みできるもんだな……)
「名前を付けてあげたいです。マリー様、良いのはありませんか?」
「私が名付けて良いのですか?」
「はいっ」
「……では…………ツバメコとでもしましょう」
「ツバメコ……?」
「あ、深く考えないで下さい! 思いつきですから」
マリーはちょっと赤面した。
「は、はい……」
マリーの態度にビスケはそれ以上は聞かない事にした。
ツバメコが仲間になった!
石材を切り出してできた石のダンジョンだからネズミも蝙蝠もいないですね。
何とつまらない。
それでも何とか燕はいました。
バジーが説明役で便利に使われてます。