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第百十一話 迷宮に潜む者






 「とにかくここに何者かが潜んでるのは間違いねえ!」


 バジーが自分のタバコを石の灰皿にこすり付けた。

 踊る女性の壁画を見る。

 

 「採掘業者がこんな趣味の悪い壁画を描く事を許される訳が無い、って事は……」


 皆がバジーに視線を集める。

 今日のバジーはやけに頼もしく見える。


 「採掘はもうされて無い。掘り尽くされて捨て置かれたんだろう。そして……」


 「そして?」


 「犯罪者、異端の者の類いが入り込み根城とした。って所でしょう」


 「何!?」


 カークが叫ぶ。

 

 「それではここは正に悪党の巣では無いか!」


 「この部屋見る限りかなりたちの悪い奴らだろうな」


 「だったら……」


 「だったら頂いてもよろしいでしょう」


 マリーは言いながら壁に近づきランタンを取り外した。


 「悪党なら問題なし!」


 「……」


 カーク達は声を失った。

 事態が大変な事になっているのに行動がその先を行っている。


 「マリー様が一番頼り甲斐あるな……」

 

 バジーは呆れながらも続いてランタンを拝借する事にした。

 

 「うん?」


 バジーはランタンを取った時その横に何かが書かれてあるのを見つけた。

 

 「これは……地図か?」


 「地図?」


 マリー達が走り寄り壁に群がる。

 

 「この真ん中の四角いのが現在地。それでこっちが埋まっちまった側か。階段があるがもう使えない。そっち側は……」


 「階段があります!」


 マリーが端っこに書いてある階段に指を突き立てた。

 

 「ここへ行けば!」


 「地上に戻れますね!」


 「いえ、ビスケさん、ここが地下一階とは限りません。すぐに地上とはならないかも。それでも行ってみないと始まらないでしょう」


 「マリー様、賊もいるのですぞ。軽率な行動は……」


 カークが諫めるもマリーは意に返さない。


 「どこにいても賊に出くわすかもしれないです。なら移動しても同じでしょう。遭遇した時の対策を立てて置いた上で階段へ向かいましょう」


 「賊はこの迷宮に慣れていますよ」


 「ではここで賊を待ち受けますか? だと必ず遭遇する事になります」


 「遭遇する前に脱出できるかもという事ですか……」


 「賊が善良なら話は簡単なのですがねえ。話し合ってみますか?」


 「何言ってるんですか!」


 「では遭遇した時の対処手段を……」


 



 「では後衛はバジーさんで。ビスケさんも後方からナイフをいつでも投げられる様に。前衛はカークさんですね。私は……」


 「真ん中で大人しくしてください! 」


 「ちゅ、中衛?」


 四人パーティーで聞いたことが無いポジション。


 「前後で守ります!」


 きっぱり言われたマリーは釈然としない顔だ。

 主導権を横取りした感じになったカークが声を上げる。


 「では地図、しっかり頭に入ってますね? 出ます」


 部屋には入って来た時の通路の反対側にもう一本通路があった。

 そこを出て行く。

 通路はそんなに広くないから一列でカーク、マリー、ビスケ、バジーの順で進み、ランタンは両端が持つ。

 

 ランタンの明かりで通路は数メートル先が支障なく見える。

 これなら道を間違う事はなさそうだ。

 少し安心感を持って通路を進めるようになった四人だったが……


 ぼごっ


 「わっ!」


 バジーが踏んだ足元が崩れて穴が空いた。


 ずでっ


 両足膝まで突っ込みバジーが倒れてしまった。


 「ああバジーさん!」


 「痛ててて!」


 ダメージを受けたバジーを見てマリーは拳を握った。


 「これは……地下迷宮のトラップですか!?」


 「えっ?そうなのかよ!」


 「いや、床が脆くて陥没しただけだと思うぞ」


 「バジーさん大袈裟ですよ〜」


 「な、何だよそれ! 言ったのマリー様だぜ」


 言いながら足を抜き出して立つバジー。

 怪我は無いみたいだ。


 「無事なら行くぞ」


 カークが歩き出し二人が続く。

 

 「つれない奴」


 膨れっ面で歩き出すバジーだが。


 がらっ


 天井で音がした。

 皆が振りあおぐと石が落ちてきた。


 「うわっ」


 こつんっ


 バジーの頭に石のかけらが命中した。


 「あ痛たた!」


 「マリー様ご無事で?」

 

 「ええ、私は……」


 「だから俺だよ!」


 石が落ちた天井を見上げるマリー。


 「これは地下迷宮のトラップでは?」


 「天井がちょっと崩れただけです! 何を期待してるんですか!」


 「さっきの大陥没に比べれば気にするほどではありませんよ〜」


 「…………そうですか」


 どうもマリーは地下迷宮のイメージにある種の願望がある様だ。


 「マリー様は少年の様な心をお持ちですね。俺もガキの頃はそういう気持ち持ってたよな〜」

 

 「バジー、お前は現実主義かと思ってたがな」


 「ほっとけ!」

 

 「そうですね、私はそういうの好きですよ」


 マリーはちょっと嬉しそうに微笑んだ。


 

 


 

 地下ダンジョンたるものどうあるべきか。

 そんなの決まりは無いけどお約束はあるようで。

 ファンタジーならともかく史実が元だしどうなるの?

 なお地下ダンジョン編はギュンター・リアーとオリヴィエ・ファイ著、古川まり訳のパリ地下都市の歴史を参考資料にしております。

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