第百八話 避難
「これは……通路ですね」
「こりゃ地下道だな!」
バジーが尻をさすりながら立ち上がった。
「つまり地下道の真上の道が陥没してこんな有様になったって事だ」
「でもバジーさんの言う通りだとこれは……」
延々続く陥没した道。
地下道とはそんなに長々と掘られている物なのだろうか?
しかも今マリー達が立つ場所は路面よりざっと二十数メートル程下にあった。
深さも尋常では無い。
マリーは通路まで近付き覗き見た。
薄暗い中、石で出来た通路がかなり奥まで続き、しかも枝道がいくつもあるのが見えた。
「ふうむ」
「マリー様、あまり近づいては……」
ごごごっ
頭上で音が響いた。
皆が見上げるとまだ崩落していない道路の一部が崩れ始めていた。
「あ、危ない!!」
カークが慌ててビスケとバジーを抱え込んだ。
崩落し落下する道路を避けてマリーの立つ方に走る。
カークに押されてマリーは通路に入り込んだ。
三人もそれに続く。
どどどどっ
瓦礫と化した道路が通路の入り口に落っこちた。
ずずんっ!
「うわあ!」
通路の内側にまでなだれ込む破片を避けて後ずさる四人。
……数瞬後やっと音が収まり空気が落ち着いた。
「これは……」
カークは入り口に走り寄る。
完全に瓦礫で塞がれていた。
壁にどんと両手で押してもびくともしない。
腰にぶら下げた木槌を持って振り落とした。
がつんっ
弾かれる様にして木槌が手から落ちた。
「くっなんと言う事だ! 滑り落ちた時金槌を無くしてしまった!」
「金槌でも無理かもしれませんね」
「マリー様!?」
「要するに閉じ込められたと言う事です」
暗闇からマリーの冷静な言葉が響く。
外からの光を閉ざされた今、この通路は視認も困難な状態になっている。
「さてどうしましょう?明かりが欲しい所ですが」
落ち込む暇も与えずマリーがこれからの方策を語り出す。
「灯りは…… これがあるか」
バジーは手持ちの袋から何かを持ち出したが暗くて良く見えない。
火打ち石の火花が飛び、やがて小さな火が灯った。
灯りの中タバコを吸うバジーの顔が浮き上がった。
「バジーさん……タバコ吸うんですか?」
「マリー様の前では絶対吸わない事になってました。今はそれどころじゃねえけど」
煙をふう〜と吐くバジー。
「しかしこれでは心許ない。他に燃やす物はないか?」
「木槌」
「おいバジーそれは!」
「救出に時間がかかるなら仕方ねえな」
「うむむ!」
カークは埋まってしまった入り口に駆け寄り怒鳴り声をあげた。
「お〜い!! 誰かいないか〜!! ここだ〜!」
「木槌一つで大人気ない……」
「違うぞ! こういう状態になったら普通こうするだろう! お〜い!」
「果たして声が届くでしょうか?」
マリーの懐疑的な言葉にカークの声が止まる。
「マリー様、それは……」
「それにさっき地上で見た光景。あまりにも陥没した範囲が長っ広過ぎます。探す方もどこから手を付けていいやら困るのではないでしょうか?」
「……」
「時間がどれだけかかるものか……」
「それじゃ、どうしたら良いのでしょうか?」
怪訝な声でビスケが聞いた。
マリーにしては後ろ向きな言い様だったからだ。
「こうして火を灯す前でも私は何とか通路の様子を見る事ができてました」
「……目がよろしいんですね」
「通路には出入り口があるものです。そこを見つければ」
「では! この通路の探索をと?」
当惑気味にカークが問うた。
それは妙案と言えるのか?
「マリー様! …………」
バジーがらしくない厳しい声を発した。
皆の目がポツリと灯ったタバコの火に向いた。
「これからこの通路について説明します。心して聞いて下せえ」
彼の言葉で空気が一変する。
パリに関してはバジーがこの中で一番事情通だと皆分かったいた。
皆はタバコの明かりを取り囲み腰を下ろし、次の言葉を待ちうけた。
「この通路は……」
バジーは煙を吐いた。
「パリ全体に広がる地下迷宮の一部です」
という事で地下迷宮に紛れ込んでしまいました。
パリの地下迷宮とは?
そしてマリーはどう暴れるのでしょうか。