第百五話 ゴミ会議
十二月十七日。
マリーは自らの息のかかった者達を集合させた。
お付きのカーク、ビスケ、そしてバジー。
パルマンティエ。
テュルゴーにテレー。
フィリップ伯爵にマーク警察署長。
最後にカジェ。
これらに加えてカジェの口利きで下掃除人組合の親方達も揃っている。
全員で三十六人いる親方達の大部分が集まったのだ。
そしてパリに三か所あるゴミ糞尿を溜めたゴミ溜め肥溜めの管理を任された管理者が二人いた。
彼らは溜め込まれた肥の処分も任されており農民に販売もしているのだ。
ここはパリの南の郊外モンルージュ地区であった。
フィリップ伯爵のお膳立てでここになったのだ。
カフェを丸ごと借り切っての全部で四十人越えの大所帯だ。
ここまで集めることができたのはその殆どの者がパリ在住であるからでもあった。
「よくお集まりくださいました。感謝この上ありません」
しかし集まった者達、特に平民連中は怪訝な顔をしている。
まだ自体を飲み込めていない様子だ。
「あらためて。私はマリーアントワネットです」
皆の視線を一身に集め彼女は話し出した。
「まずこれまでのゴミ回収の方法を一新したいと考えてます。糞尿とゴミは別々に分けて回収します。これは市民側の協力も必要ですので法令で定めて実行するよう努めます」
平民達の顔色が変わる。
そういう話があるとは事前に聞いていたとは言え、いざ本当に話し出されると……
「そして糞尿の方は現在の三か所の捨て場ではなく農村へと直接売り渡す事とします。農村には売り渡した肥を受け入れる肥溜めを作っておく様にします。それによりパリに溜まった肥を農村へ広く分散できます。街から肥を集める役目の者と集めた肥を更に農村に運ぶ役目の者ができます。もちろんそれらを同じ人間が掛け持ちで行う事もできましょうけど体力と相談しなければならないでしょうね」
一旦言葉を切り、そして。
「ここまででご質問は?」
慌てふためきながらゴミ糞尿の管理者が問いかけた。
「そ、それではこれまで糞尿を溜めていた場所はどうなるのです?」
「そこにはこれからは肥を集めず今ある分が無くなるまで販売していく事になります」
「そんな!」
「当然肥を直接農村へ売り渡す仕事ができるので下掃除人の組合の方にその仕事の斡旋を願います。そして溜め込んでいたゴミ糞尿の管理者の皆さんにもこの仕事の業務運営をお頼みします。これまで勝手に肥を汲み取る農民がいましたが、そのためいつも見張りが立っていました。その方を肥料を運ぶ仕事に振り向ける事もできましょう。もちろん本人の意思次第ですが」
「……」
「要は集めた肥を売りさばく仕事と権限をお分けしますと言う事です」
「あ、しかし……」
「急な商売替えは大変でしょう。しかし仕事を失うのみとは違います。新たな職で頑張って頂きたいのです」
「そんな事本当にできるのかい?」
女性にしては野太い声が響く。
下掃除人のカジェだった。
「わざわざ金払って農民が肥を買うのかね?それが嫌で肥を盗んでた奴もいるってのに」
彼女にしても急に言われても簡単に疑惑を払拭できないのだ。
当然と言えば当然の疑問だがマリーが動じる様子は微塵も見られなかった。
ゴミ会議が始まりました。
国務会議への予行練習です。
本番はいつ始まる事やら。