第百三話 消耗線
「だから高等法院は絶対に必要です! 」
「ですから誰にです?」
「誰って、法の基正しい秩序をもたらす為に必要なのですよ!」
「誰がもたらすのです?」
「誰って法がもたらすのです」
「では法がもたらすなら貴族が運営しなくても構いませんね」
「えっな、何を言っているんですか!」
「法の基では貴族も民も関係ない。なら運営も貴族でなくても、民でも良いではないですか」
「な、なんと」
無茶苦茶だよこの人。
「三部会とはそういう物でしょう。貴族、聖職者、民。それぞれに運営を任せられた議会です。それを復活させたいのです。高等法院のみ復活しては貴族の権限のみ拡大します。バランスを取ろうというのです」
「高等法院一つ再開するのに大変なのにそんな簡単に三部会まで復活できる訳ないでしょう!」
(堂々巡りを繰り返しているな……)
テュルゴーは見ているだけで大分疲労を感じていた。
もうどれくらい言い合っているか。
時計の長身がとうに一周している。
これでは七十四歳のモルパが持たないだろう。
もしかしてこれが王妃の狙いか?
とは言うものの……このまま続けても……
「お二人共! 一旦お休みください」
「……」
「……」
二人はそれぞれの席に付いた。
モルパは席にどっかり足を開いて座り背もたれにもたれかかっている。
隣の部下が布で煽いでいた。
テュルゴーがため息をつく。
「随分時間が経ってしまいました。もう次の議題をやる時間は無くなりました」
「…………」
多くの者が呆れ疲れている。
この先どうなる事か。
「さて今議論中の議題ですが」
テュルゴーは王を見た。
「国王様、如何いたしましょう?」
振られて当然王は慌てふためいた。
最終的に決定するのは国王なのだ。
しかしあの攻防の後自分が決定するのは。
いくら妻が参戦してるからと言って高等法院と三部会をいっぺんに復活させるなど大それた事できる訳ない。
となるとやはり……
「国王様」
「あ、ああ」
「この議題はまだ議論の余地があるようですな」
「そうだな」
「では次回に持ち越しと言う事でよろしいでしょうか」
「ああ、それがいい」
おお〜
気だるいどよめきが広がる。
「それでは今回の国務会議はここまでといたします」
正直全体的な長さはそれほどでも無かったが一つの議題における疲労度が大きかったので時が長く感じられた。
それにしてもこんな形で高等法院の復活を延期させるとは。
疲れ切った状態でモルパが部下に支えられながら退場していく。
一方のマリーは国王に何か話しかけていた。
テュルゴーは二人に歩み寄って行った。
「あなた、ありがとうございました」
「いや、何もしていない。君に好きに言わせると認めておいただけだった」
「それこそが感謝この上ないことです」
「そうか……」
「国王様王妃様、お勤めご苦労様ででした」
「ああ」
「テュルゴー様もご苦労様でした」
「しかし……」
ここでテュルゴーは声をひそめてマリーに囁く。
「言葉数で時間を稼いで時間切れに引き込むとは。モルパ殿のお歳を考えての上の事でしょうか……」
「? 、何をおっしゃっておられるのです。私はただ三部会の復活を望んでいただけですよ! つい熱くなって言葉を止めるきっかけを失ってしましたが」
「そ、そうですか……」
絡め手を使っていたつもりじゃ無かったのか……
まっすぐな方、と言う事なのだろうか。
体力勝負になってしまいました。
マリー側にはあと少しの猶予が必要だと言う事ですか。
先延ばしは何度も使えないのでどうしましょう、って言うのは作者の今の話作りの悩みでもあります。
困った……w